AKIHIRO HARUSAWA
日本ブランド戦略研究所 代表
東京大学法学部卒。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程修了。コーポレートディレクション、トーマツコンサルティング、デロイトトーマ ツコンサルティング(現アビームコンサルティング)を経て2003年に日本ブランド戦略研究所を設立。おもな著書に「知的資本とキャッシュフロー経営」 (生産性出版)、「図解ブランドマネジメント」(東洋経済)などがある。
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第2回
CSRコンテンツのあり方で
企業姿勢が問われる時代に
CSR(Corporate Social Responsi-bility;企業の社会的責任)が注目されるようになっている。CSRの概念は広く、企業倫理やコンプライアンス(法令遵守)にとどまらず、企業が社会とのかかわりにおいて果たすべき責任ある行動のあらゆる態様を含んでいる。
CSRのどの側面に注目が集まるかは時代に左右される。たとえばエンロンの事件は企業のガバナンス(統治)のあり方を見直す契機となり、京都議定書をめぐる論議は地球環境問題に対する国際的な関心を高める機会となった。
このような中で、CSRコンテンツの充実に積極的に取り組む企業が次第に増えてきている。弊社の調査では、CSRコンテンツに対する評価と企業情報サイト全体の評価との間には、一昨年はほとんど相関が見られなかったが、昨年末の調査では緩やかな相関が見られるようになった【1】。
【1】250社の企業情報サイト指数を目的変数、コンテンツ評価を説明変数として重回帰分析した結果(データ:日本ブランド戦略研究所「企業情報サイト調査2005」より)
■企業価値とCSR
CSRと関連が強い分野で、SRI(Social Responsibility Investment;社会的責任投資)がある。
その歴史は古くは1920年代の欧米にさかのぼることができる。当時の教会は多額の運用資金を持っていたが、その運用先の選定のために、酒、ギャンブルなど、キリスト教的倫理観に反する特定の業種を投資対象から除外するという基準を適用した。
2000年代以降、SRIはCSRを評価する投資として一般化したが、その背景には、CSRを果たす企業は長期的に企業価値が向上すると広く認識され、合理的投資としてメジャー化したことがある。
■多様化への対応
価値観の多様化とともに、CSRの対象範囲も多様化している。少し前までは環境問題が非常に大きな関心を集めていたが、最近は数多い関心事の中のひとつ(といっても、依然として大きな関心事であることには変わりないが)となっている。
いくつものCSRに関する指標が提唱されているが、代表的なものはひとつの企業を「経済」、「環境」、「社会」などから多面的に評価するものである。それぞれの指標には、顧客、従業員、株主、供給業者、原材料、廃棄物、生物的多様性、労使関係、安全衛生、差別対策、地域社会、政治献金など、実に多様な側面が含まれている。
■いま正しいCSRコンテンツのあり方
CSRに対する潮流の変化を受け、これまで独立したコンテンツとして提供されることの多かった環境コンテンツがCSRコンテンツの一部となる動きが広まっている。また、意識の高い企業を中心に、CSRコンテンツでの情報提供に意欲的に取り組む例が次第に増えている。
ここで留意点として2点挙げたい。1点目は宣伝の要素を入れないことである。CSRに取り組む企業は投資家や消費者にとって長期的視点で好ましいという認識が広がっている。その中で、ことさらに宣伝臭を感じさせることは、企業の姿勢に疑問を抱かせる要因となりかねない。
2点目は、多岐にわたるCSRの各項目を並列的に伝えようとすると散漫な印象を与えやすいことである。サイトでは、企業としてのポリシーをしっかり伝えたい。
この点で参考になるのはアサヒビールである【2】。同社では、CSRをCS(Customer Satisfaction)+R(Relations)と定義し、あらゆるステークホルダーをお客様と位置づけ、その満足度(CS)を高め、ステークホルダーとの交流(Relations)を通じてCSRを推進する、としている。同社のさまざまな活動をこの枠組みに沿って位置づけているため、理解しやすく、印象に残りやすいコンテンツとなっている。
【2】アサヒビール(株)のCSRコンテンツ(www.asahibeer.co.jp/csr/)
このように、CSRコンテンツはその企業がどう社会と向き合おうとしているのか、その姿勢が反映されたものとなりやすく、またそうであるべきではないだろうか。
本記事は『Web STRATEGY』2006年7-8 vol.4からの転載です