AKIHIRO HARUSAWA
日本ブランド戦略研究所 代表
東京大学法学部卒。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程修了。コーポレートディレクション、トーマツコンサルティング、デロイトトーマ ツコンサルティング(現アビームコンサルティング)を経て2003年に日本ブランド戦略研究所を設立。おもな著書に「知的資本とキャッシュフロー経営」 (生産性出版)、「図解ブランドマネジメント」(東洋経済)などがある。
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第7回
自社サイトへのアクセス者動向は
企業ブランド力の鏡となる
今日のマーケティングコミュニケーションはWebサイト抜きでは語れない
テレビは視聴者に対して一方的に情報を送る典型的なプッシュ型のメディアであるのに対し、Webサイトは消費者が主体的に情報を取りに行くプル型のメディアである。
そこで、企業Webサイトにおける消費者の行動にはその会社のブランド力が色濃く投影されることになる。
■消費行動の要となるWebサイト
インターネットで検索する行為が一般化し、自分が興味をもったこと、疑問に思ったことはすぐに調べるという消費者が増えている。商品を購入する場合には、あらかじめWebサイトで情報収集し、ある程度欲しい商品を絞り込んでから店頭に出向くという行動がひとつの典型的なパターンとして定着している。たとえば、自動車の場合にはディーラーに行く前にメーカーのWebサイトで情報収集してから購入したという人の割合が全体のおよそ3割に達しようとしている。
このように、今日、消費者の購買行動において、Webサイトが極めて重要な位置づけを占めるようになっていることは、Webに携わる者の間ではもはや常識になっているといって過言ではない。
もっとも、残念なことに、Webに直接関係しない多くの部署の方々、そしてインターネットをそもそも業務で利用することが少ない会社のトップマネジメントの認識はまだそれほどではないことが少なくないが、その状況も今後急速に変わっていくものと思われる。
■ブランド力を反映するアクセス状況
ある消費者に対して特定のブランドを示し、興味があるかどうかを尋ねたとする。そして「イエス」という回答を得たとする。しかし、これだけではその人が当該ブランドにどの程度ロイヤルティを抱いているかどうかはわからない。ロイヤルティの本当のレベルを知りたければ、その人がブランドに対して起こした実際の行動を追跡する必要がある。インターネットが消費行動に組み込まれるようになった今日では、サイト上での行動は立派な分析対象となる。
グラフ【1】【2】はそれぞれの企業に興味がある人のうち、実際にその企業のWebサイトにアクセスしたことのある人の割合を示したものである。
【1】興味ある人のうち、実際にアクセスした人の割合(1) 電機メーカー(データ:日本ブランド戦略研究所「Web Equity2006」より)
【2】興味ある人のうち、実際にアクセスした人の割合(2) ビールメーカー(データ:日本ブランド戦略研究所「Web Equity2006」より)
電機メーカーの場合には、ソニーとパナソニックが、興味ある人のうち70%以上が来訪しており、両ブランドに対する消費者のロイヤルティの高さがうかがわれる。次いでナショナルとキヤノンにロイヤルティの高いユーザーが多いことが示されている。
ビールメーカーの中ではキリンビールに対する来訪者比率が際立って高い。同社は持てるポテンシャルを十分に発揮し、興味がある人を実際の行動に駆り立て、自社のサイトに呼び込むことに成功している。
このように、Webサイトへのアクセスは消費者が主体的に行った行動であり、サイトへの誘導策という要素はあるものの、ブランドロイヤルティの水準を示すひとつの目安となると考えられる。
■アクセス率の低迷は赤信号
今度はグラフに示された指標が下位のメーカーに注目してみよう。
電機メーカーで最下位は、親会社である松下電器による売却が報道されたビクターで、興味がある人のうちたった20%しかアクセスしていない。母数は全消費者ではなく、あくまで同社の製品に興味がある人であるから、数字の示す意味は重大である。
下位から2番目はこれも経営不振が伝えられる三洋電機である。興味のある人の3人にひとりしかアクセスしていない。
ビール会社は電機メーカーと比べるとおおむねアクセス率は高い。しかし会社によってある程度差がついている。4社の中ではファンドによる買収問題で揺れているサッポロビールのアクセス者の比率がやや低い。
購買行動の途中段階にあるWebサイトへのアクセス者が少なければ、その先にある購入者も少なくなることが予想される。このように、サイト上のユーザー行動はブランドに対する消費者の心理が投影された貴重な情報となる。
本記事は『Web STRATEGY』2007年5-6 vol.9からの転載です