AKIHIRO HARUSAWA
日本ブランド戦略研究所 代表
東京大学法学部卒。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程修了。コーポレートディレクション、トーマツコンサルティング、デロイトトーマ ツコンサルティング(現アビームコンサルティング)を経て2003年に日本ブランド戦略研究所を設立。おもな著書に「知的資本とキャッシュフロー経営」 (生産性出版)、「図解ブランドマネジメント」(東洋経済)などがある。
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第5回
Web標準への対応を戦略的に行う
Webサイトを多くの人にとってメリットのあるものにするため、いくつかの機関によってWebに関してさまざまな標準規格がまとめられている。
こうした規格には強制力がなく、準拠するかどうかはWebサイトを運営する企業側の任意である。しかし、標準とされる内容や関連する技術環境が変化すると、その対応策が制作サイドでホットな話題となることがしばしばある。
■標準に準拠するメリットは大きい
具体的な仕組みはここでは触れないが、Web標準に準拠することで得られるメリットとして、たとえば以下のようなものが一般的に挙げられる。
第一にアクセシビリティが確保しやすいという点である。次に、サイトの更新など、メンテナンスがしやすくなる点が指摘される。さらに、ページが軽くなりやすいという利点もある。
これらに加え、SEO対策上有利となる点が挙げられる。そして、この点がおそらく企業にとってもっとも大きなメリットとして広く認識されているのではないかと考えられる。
企業としては任意でないものに対して自主的に対応するにはそれなりの理由が必要だが、こうした具体的なメリットがあれば対応しやすいといえる。
■目的化するのは本末転倒
一方、制作者サイドから見ると、新たな領域が生まれることは、挑戦意欲をかき立てられる対象がまたひとつ増えるということにつながる。
たとえば全面的にCSSを利用して制作したサイトがまだ少なかったころに、ぜひ他者に先駆けてそのようなサイトを構築したいと思うのは制作者魂の表れとしてよく理解できることである。
しかし、もともとの趣旨を理解したうえでWeb標準に準拠するならよいが、それ自体が目的化してしまうのは本末転倒である。
たとえば、W3Cの勧告では、画像などテキスト以外の要素には必ず同等の役割を果たすテキストをつけることが推奨されている。しかし、画像にはなにがなんでもalt属性で代替テキストをつけると、ページ構成によっては音声読み上げソフトを使うとかえって聞きづらくなってしまうケースがないわけではない。また、JISではサイト内で一貫性のあるナビゲーションをつけることが推奨されている。しかし、同じサイト内であっても、まったくユーザーの往来がないコンテンツ同士を、同じナビゲーションで結ぶ必要があるとは限らない。
■総合的な検討が重要
企業Webサイトにはビジネス上の目的がある。その達成手段として総合的な見地から対応の仕方を判断したい。
ここで参考になるのは富士通のサイトである【1】。
【1】富士通のサイト(jp.fujitsu.com/)
同社のサイトは日経パソコンのユーザビリティランキングで3年連続1位になるなど、ユーザビリティで高い評価を得ているが、それだけでなくユーザーからも高い評価を得ている。弊社のBtoBサイト調査では、システム開発者や社内SEなどIT関係者が評価した84サイトのうち、上位30サイトの中に同社およびグループ企業のサイトが5サイトもランクインしている【2】。このような結果は、IT関連のソリューションを広範囲に手がける同社にとってリアルのビジネスのうえでの訴求力にもプラスになることではないだろうか。
【2】IT関係者が評価したサイトのベスト30(データ:日本ブランド戦略研究所「BtoBサイト調査2006」より)
今後、リニューアルの必要性を社内に訴えたい担当者にとって、さまざまな規格はそのための環境整備の手段として利用することができる。たとえばJIS X8341-3という規格への対応は差し迫った課題である、という訴えは良いきっかけとなり得る。その意味でも規格がある意義は大きい。しかし、担当者としてはその先を見据え、ビジネス上のメリットを最大限に享受できるように戦略的に物事を進める姿勢が求められるのではないだろうか。
本記事は『Web STRATEGY』2007年1-2 vol.7からの転載です