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AKIHIRO HARUSAWA
日本ブランド戦略研究所 代表

東京大学法学部卒。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程修了。コーポレートディレクション、トーマツコンサルティング、デロイトトーマ ツコンサルティング(現アビームコンサルティング)を経て2003年に日本ブランド戦略研究所を設立。おもな著書に「知的資本とキャッシュフロー経営」 (生産性出版)、「図解ブランドマネジメント」(東洋経済)などがある。
url. japanbrand.jp/



第12回
情報公開は社内に良い緊張感を生む



2007年の世相を表す漢字に「偽」が選ばれるなど、昨年は食の偽装にまつわる話題に明け暮れた1年だった。今年も当分この話題がマスコミをにぎわしそうである。

このような中、以前はマスコミを通じて間接的に情報を得るだけだった消費者は今日ではWebサイトを通じて自ら情報を集めるようになっている。企業の情報公開の姿勢を消費者が直接感じ取る時代となった。


企業情報の公開は信頼の源

上場企業など、社会的に大きな影響力を持つ企業は、適時・適切に企業情報の公開を行わなければならない。これは第一義的には社会的な要請であるというべきであろう。

さらに、情報公開は結果的にその企業に対する社会からの信頼を増すという効果をもたらす。Webサイトの企業情報の閲覧前後での企業信頼度の変化を見ると、確かにプラスの効果が認められる【1】。

【1】閲覧前後の企業信頼度の変化。閲覧による企業信頼度の向上効果は11.1ポイントとなった(データ:日本ブランド戦略研究所「企業情報サイト調査2007」)






【1】閲覧前後の企業信頼度の変化。閲覧による企業信頼度の向上効果は11.1ポイントとなった(データ:日本ブランド戦略研究所「企業情報サイト調査2007」)


企業情報は、基本的に売るための情報である製品情報とは異なり、売り上げとの直接的な関係は小さい。にもかかわらず、企業情報の公開でどれだけ売り上げが増えるかを気にしすぎるマネジメント層が多すぎるように感じる。確かに情報公開には相応の費用がかかる。しかし、企業のレピュテーション(評判)を高め、ブランド価値を長期的に向上させるために重要である。


情報開示は消費者の目線で

食品メーカーの安全・安心に対する消費者の視線が厳しくなる中、関連する情報を積極的に開示しようとする企業も増えている。

しかし、まだ多くのメーカーでは、Webサイト上のこうした情報はCSRコンテンツの一部として掲載されていることが多い。だが、CSRコンテンツの基になるCSR報告書や環境報告書はもともと専門的な内容が多く、一般消費者が容易に読み進めるようなものではない。一般消費者にも読みやすい形で、しかも多くの人が求める情報に焦点を当てた情報の開示が望ましい。

ここで、カゴメのWebサイトに注目してみたい。同社のサイトでは、「社会・環境報告書」とは別に「安心・安全への取り組み」が独立したコンテンツとして作成されている【2】。

【2】カゴメサイトのコンテンツのひとつ「安心・安全への取り組み」(www.kagome.co.jp/hinshitsu/)
【2】カゴメサイトのコンテンツのひとつ「安心・安全への取り組み」(www.kagome.co.jp/hinshitsu/


このコンテンツでは、品質方針のほか、畑での取り組み、工場での取り組み、検査・分析・表示・お客さまとのコミュニケーションといった、製品の生産から消費者に至るまでのカゴメの取り組みが紹介されている。そのほか、添加物についてなど、消費者が気になるテーマがトピックスとして取り上げられている。

内容的にもひとつひとつは短いセンテンスでまとめられており、「フィールドマン日記」という現場の人の興味深い日記もあって非常に読みやすい。


公開の姿勢に垣間見る企業統治

公開すべき情報の中には、製品のリコール情報など法的に義務づけられているものもある。

しかし、積極的に多くの情報を開示しようとすればするほど、その内容は企業が任意に行うものの割合が増えてくる。

こうした情報はほとんどの場合、広報担当者など開示する役割の人と情報源となる人が異なっている。

そこで、価値ある情報を持っている人を見つけ出して交渉し、得られた情報を開示できる形に編集・加工しなければならない。当然、責任ある情報を出せるよう、正確な情報の記録やチェック、承認のプロセスも必要になる。

社内のあらゆる場を基点とし、社外ステークホルダーへの情報開示を終点とする業務プロセスを確立し、その過程で情報の質を担保するためには関連する組織間でいい意味の緊張関係が必要である。そこにどれだけのエネルギーを費やすかはその会社の企業統治のあり方そのものを反映している。

消費者は情報の内容自体ももちろんだが、こうした企業の姿勢を垣間見て共感を覚え、信頼感を抱くのである。


本記事は『Web STRATEGY』2008年3-4 vol.14からの転載です
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