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リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第4回 INAX

2024.4.27 SAT

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第4回 INAX






株式会社INAX
マーケティング部エンドユーザー戦略室 室長
千葉哲也 氏



対業者と対ユーザー、ふたつのコミュニケーションを
バランスよく実現するINAX


生活の中に浸透した製品メーカーの中にはエンドユーザーとの接点という意味において独特な業態が存在する。今回取材させていただいたINAXもそんなメーカーのひとつ。トイレやキッチンなど住生活には欠かせないモノでありながら、エンドユーザーが頻繁に購入したりするものではなく、また多くの場合、直接購入する製品でもない。

ただし、昨今のリフォームブームの中、こういった住環境製品に対してのエンドユーザーの関心は高く、また新築物件購入に際してもサニタリーにこだわるがごとく、トイレという空間にこだわりを持つエンドユーザーも増えているという。

このような状況の中、メーカーとしてはエンドユーザーとの直接的な接点はないにしても、従来のように施工業者などの中間業者への商品訴求に注力するのではなく、エンドユーザーも意識した幅広いプロモーション活動を必要とされるようになっているのではないだろうか。対業者と対エンドユーザー、ふたつのターゲットを意識したうえでのWebコンテンツ展開と運営手法に関して、(株)INAX マーケティング部エンドユーザー戦略室の千葉哲也室長にお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 直販は行わない
中間業者と協力してエンドユーザーに商品を届ける


Web STRATEGY(以下、WS) キッチンやトイレ、お風呂場といった生活空間ではINAXというロゴマークにもなじみがあり、製品自体も生活に密着したとても身近なものです。ただ、ショップに行って直接購入するという製品でもないわけで、その意味では御社がどのような企業なのか、まずはそこに興味をひかれます。

千葉氏 業態としていえば、当社は総合住宅設備機器・建材メーカーということになります。みなさんもご存じのように、トイレやキッチンなどの住宅設備機器をはじめとして、タイルなどの資材なども供給しています。もともとは1924(大正13)年に愛知県常滑市で伊奈長三郎という陶芸家が起こした会社で、当時は伊奈製陶(株)としてテラコッタや陶管(土管)などを製造していたのが事業の始まりでした。1937(昭和12)年に当時のお風呂場では広く利用された半磁器タイルの製造を開始し、これがヒット商品となり企業としての成長を果たしたんです。戦後になり、トイレ、洗面所、浴室などの衛生設備に使用される衛生陶器の製造を開始し、現在の事業へと展開してきたんです。

WS 身近な製品だけれども、特に個人では直接購入する機会はなかなかないわけですが、御社の販売ルートとしても住宅メーカーや施工業者がメインということになるのでしょうか。

千葉氏 そうですね。基本的には住宅メーカーや施工業者さんといった中間業者さんへの販売がメインであり、一般消費者の方々に直接販売するということはないですね。トイレやキッチン、お風呂といった製品でもすべて施工が必要ですから。ただ、現在では消費者さまからの問い合わせやショールームへ直接足を運んでいただく方なども増えています。そういった場合にも直販するのではなく、施工業者さんをご紹介するといった対応をさせていただいています。

住宅設備業界の収益モデル
■住宅設備業界の収益モデル
住宅設備メーカーとしてのINAXは、エンドユーザーに対して直販するのではなく、ハウスメーカーや施工業者に対して商品を販売する。ただし、現在ではエンドユーザーへの情報提供もメーカーとしての重要な役割となっている


WS そうなると商品のプロモーションというか、カタログ供給などの情報提供も中間業者さんがメインということになるのでしょうか。

千葉氏 基本的にはそうです。ただ、時代の変化に伴い、情報提供の構造も変わりつつあります。というのも、ここ数年の動向として新規住宅の着工件数が減る傾向にあるんです。年間120万件程度あった新築着工件数が、近い将来100万件を割るのではないかという予想もあります。代わりに増えているのが、いわゆるリフォーム物件です。新築物件の場合は、トイレやお風呂場というのは全体の中のひとつの要素であって、ある意味エンドユーザーさまはハウスメーカーさんが住宅物件に合わせて選び、用意したものから選ぶというだけですが、リフォームの場合はトイレやお風呂場そのものをエンドユーザーさんが選ぶことになります。

WS なるほど。そうなると、当然、一般コンシューマも詳細に商品を調べるでしょうし、目も肥えてくる。コンシューマを意識した情報提供も必要となりますね。

千葉氏 そうですね。実は当社では2001年をリフォーム元年と位置づけて、マーケティングとしてもリフォーム需要を想定した戦略を展開しているんです。それは現在も続いているわけですが、これによって従来はハウスメーカーさんや施工業者さんなどのデベロッパーさん中心の戦略に加えて、エンドユーザーさんをターゲットとしたマーケティング展開を強化しています。実際、リフォームを目的としてショールームへ来られるエンドユーザーさんも増えていることから、ショールームのあり方自体を考え直したり、業者向けに用意していた商品カタログに加えて、コンシューマ向けカタログをつくるなどですね。もちろん、媒体としてはWebもあるわけです。




2 さまざまなコンテンツを実験的に展開
時代の流れに即してユーザー向け情報を強化


WS リフォーム需要の増加を契機に、マーケティング戦略がエンドユーザーを想定するものへと変わっていったということですが、そこにおいてWebはどのような役目を果たしてきたのでしょう。まずは、御社のWebサイトの立ち上がりからお聞かせいただけますか。

千葉氏 当社のオフィシャルサイトが最初に開設されたのは、1996年7月のことです。当時はまだインターネットも黎明期にあり、Webサイトを持つという話も営業からではなく、研究部門から持ち上がったんですね。インターネットという新しいネットワークインフラがあるが、これを社業に活用できるのではないかと。そこで社内に横断的な連絡会議として「インターネット運営委員会」というものが設立されたんです。といってもWebサイトを開設・運営するための部署というわけではなく、社内でインターネットに関心のある人たちがお互いに情報交換できるような場として開かれたものでした。

WS そのインターネット運営委員会の活動を通じて、最初のWebサイトが開設されたわけですよね。

千葉氏 そうですね。開設当初のWebサイトは、当時の企業サイトではありがちな企業案内コンテンツだけで構成されたようなものでした。当時はまだエンドユーザーさんを意識していたわけではなかったので、製品情報を載せるということもなかったんです。ただ、もともと当社の社風として新しい試みにチャレンジしやすいというのがあったため、Webサイト開設もその流れの中で実験的に行っていったという感じですね。

WS 当初は企業紹介コンテンツがメインということですが、その後はどのようなコンテンツを展開していったのでしょうか。

千葉氏 ビジネス的な活用ができないかと考えて、行ったのがCADデータのダウンロードサービスです。プロの設計士やコントラクターを対象としてはいましたが、基本的にオープンなサービスで、現在ではさまざまな企業で提供されていますが、当時はほかに例がなく、おそらく業界初の試みだったと思います。ほかにも、常滑市に寄贈されていたタイル関連の学術的資料を画像アーカイブとして、インターネットを活用し一般公開したんです。

WS BtoBに近い情報サービスや、文化活動を通じた広報活動といったものを、インターネットを通じて早い時期から行われていたんですね。その後は、どのような展開となったのでしょう。

千葉氏 先ほども述べたように、その後2001年を当社のリフォーム元年と位置づけたのを契機に、Webサイトでもエンドユーザーに向けた情報発信を行おうという方向転換がありました。それまでは商品情報はほとんど掲載していなかったんですが、このころからWebサイトにも商品情報を積極的に掲載していったんです。というのも、宣伝部によるカタログ制作がDTP化を進めていたこともあり、デジタル化された情報を二次活用しようという考えもあったんです。2001年には業者向け、エンドユーザー向けの情報が50%ずつといった割合でしたが、2003年にはエンドユーザー向けのサービスを強化しようという機運が高まりました。この年は、実は当社のWebサイトが大きく変わったエポック的な年でもあるんです。

WS 大きく変わったというと、何かきっかけがあったんでしょうか。

千葉氏 実はこの年からエンドユーザー評価を知るためのネット調査を行ったところ、かなり低い評価を受けたんです。同時にインターネット委員会を中心として社内でももっとエンドユーザーに向けたコンテンツやサービスを充実させたほうがよいという声が上がったんです。そこで、インターネット委員会から経営側に働きかけて、Webサイトの全面リニューアルが行われることになったんです。先ほども言いましたが、当社の社風として新しい試みを積極的に仕掛けることが比較的やりやすいのです。ですから、トップダウンではなくミドルアップダウン的にプロジェクトが動き始める。ただ、もちろんトップからは、単にリニューアルするのではなく目的性をもつことを指摘されました。

WS リニューアルに際しては、具体的にはどんな方針で行われたのでしょうか。

千葉氏 リニューアルは2003年から2004年にかけて行っていきましたが、まずは商品情報の整理から始めました。その際、エンドユーザーさまのニーズを解析し、さまざまな目的に合わせたナビゲーションを意識したものです。商品情報の整理がある程度終わった段階から、次はブランド戦略の展開を試みたんです。それまでは営業、広報といった各部署ごとにやりたいことを進めていたのですが、ブランド委員会でも審議に諮るようになり、さらにマーケティング部を中心に顧客別のマーケティング戦略をとるようなってきました。実際にはブランド戦略は完成したというわけではなく、現在でも進めている最中だといえます。

INAXのリフォーム市場におけるユーザーコンタクト
■INAXのリフォーム市場におけるユーザーコンタクト
リフォーム市場においてはエンドユーザーが住宅設備機器にも強い関心を持つため、商品選びから決定までのユーザー行動を詳細に分析し、各行動パターンにおいてどのようなメディアでどんなアプローチを行うかを戦略的方針として整理している。この戦略は現在も改良が続けられている


WS 技術面での改良はどんなことに取り組まれていますか?

千葉氏 最新のユーザー動向に合わせて技術的なチャレンジにも積極的に取り組んでいます。昨年「ニュースリリース」をRSSフィードで提供し始めたのですが、これは業界に先駆けて導入したんですよ。




3 独特な購買プロセスが
Webサイトのバリエーションを生む


WS ブランド戦略は進行中ということですが、現在ではコーポレートサイトとしてのinax.co.jpのほかに、「eショールーム(inax.jp)」、「いいナビ(iinavi.inax.co.jp)」、さらにはブランドごとのポータル的なサイト構成となっていますね。

■INAXのWebサイト群

INAXコーポレートサイト(www.inax.co.jp/)は、オフィシャルサイトとして商品情報を核に全企業情報を網羅するもの
INAXコーポレートサイト(www.inax.co.jp/)は、オフィシャルサイトとして商品情報を核に全企業情報を網羅するもの

eショールーム(inax.jp/)は、オンラインショールームとしてエンドユーザーにライフスタイルの提案を通じて商品情報を提供し、さらには実際のショールームや施工業者へと誘導する
eショールーム(inax.jp/)は、オンラインショールームとしてエンドユーザーにライフスタイルの提案を通じて商品情報を提供し、さらには実際のショールームや施工業者へと誘導する

いいナビ(iinavi.inax.co.jp/)は、パートナーであるハウスメーカーや施工業者向けのサイト。商品・施工情報やCAD画像の提供などパートナー向けの支援コンテンツを掲載
いいナビ(iinavi.inax.co.jp/)は、パートナーであるハウスメーカーや施工業者向けのサイト。商品・施工情報やCAD画像の提供などパートナー向けの支援コンテンツを掲載

快傑ホームズ(www.k2-homes.com/portal/)は、地元密着で活動する工務店を紹介するポータルサイト
快傑ホームズ(www.k2-homes.com/portal/)は、地元密着で活動する工務店を紹介するポータルサイト

各種商品ブランドごとにブランディングポータルサイトを展開
各種商品ブランドごとにブランディングポータルサイトを展開
各種商品ブランドごとにブランディングポータルサイトを展開


千葉氏 現時点では全方位的な情報発信とサービスの窓口ということをWebサイト運営では意識しています。これは、やはり当社をはじめとする住宅設備業界の独特な購買プロセスがあることもひとつの要因です。最初にも述べたように、住宅設備機器というのはエンドユーザーさまが直接購入されるものではないんです。メーカーが販売するのはあくまでも中間業者なのです。ただ、大手ハウスメーカーさんなどであれば資金力もあり宣伝にも力を入れられますが、多くの施工業者さんではそうはいかない。そうなれば、当社のようなメーカーからエンドユーザーに向けた情報発信を積極的に行ったり、もちろん業者さんに対する情報・サービス提供などの支援活動も行い、業界全体を活性化させていくという役目があると考えています。

WS より具体的には各サイトの役割はどうとらえているのでしょうか。

千葉氏 inax.co.jpは広報および営業を主管としたオフィシャルサイトであり、商品情報を核として当社の全情報を体系的に整理しています。これに対して「eショールーム」は商品購入の検討初期段階のエンドユーザー向けのサイトとして、さまざまなライフスタイルを切り口として商品情報を提供し、最終的にはショールームや施工業者さんへと誘導することを目的としています。施工業者さんなどの事業パートナー向けに展開しているのが「いいナビ」であり、商品情報から施工情報まで幅広く取り扱っています。同時に施工業者さんを支援するためのサイトとして「快傑ホームズ」というのも運用しています。これはパートナーである工務店さんを紹介するためのポータルサイトなんです。さらにブランドごとのポータル的なサイトを用意しています。ブランディングについては、ライフスタイルと商品情報の両面を押さえて、商品だけでなく空間としてのデザイン提案を行うものです。ブランディングを通じて、企業としてのイメージ戦略を展開することも狙っています。

WS これだけの規模となると制作運用面での管理もたいへんなのではないかと思いますが。

千葉氏 基本的には各部署ごとにやりたいことを発案し、実施するようになっています。実制作に関してはアウトソーシングしていますが、これも各部署ごとに管理しているんです。もちろん基本的なレギュレーションもあり、各主管ごとに管理・調整も行いますが、重要なことは「お客さまが望むものをコンテンツとしてインテグレーションする」ことにあると考えています。

WS 実際に売り上げに対するWebサイトの貢献度などは測定しているのでしょうか。

千葉氏 売り上げに対する直接的な貢献度は図っていません。というより単純には図れないと思いますね。もちろん経営判断のためのリサーチなどは行っており、また毎年ユーザー評価も行っていますが、重要なことはアクセスログなどを解析してユーザー行動を分析し、ナビゲーションの改善やコンバージョン率の向上へと結びつけるような洞察力のある企画を行うことだと思います。




役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2006年7-8 vol.4からの転載です
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