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リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第12回 ANA

2024.4.19 FRI

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第12回 ANA



全日本空輸株式会社
営業推進本部 WEB販売部
主席部員
高柳直明 氏 (右)

全日本空輸株式会社
営業推進本部 WEB販売部
主席部員
山本裕規 氏 (左)


利便性に加え、コンテンツ価値を高めることで、
さらなるWeb利用率向上を目指すANA


Webの利便性にいち早く着目し、早期から航空チケットのオンライン予約販売に着手したANA(全日本空輸)。マイレージサービスの導入で需要喚起を促す一方、主要ターゲットとなるビジネス利用者のWeb利用状況を踏まえ、Webサービス開始から数年でオンラインチケットセールスを急速に伸ばしてきた。

それだけにとどまらないANAは、さらにターゲット層を広げることで、現在では売り上げの50%以上をWebを中心としたチャンネルで達成しているという。その成功の背景には、マイレージや購入手続きの簡便性を意識したチケットレスなどの周辺サービスの充実と同時に、Web自体のユーザビリティをつねに意識してコンテンツ提供を行ってきたことが大きな要因のひとつ。

今回はオンラインサービスを中心としたANAのWeb戦略の経緯に関して、全日本空輸 営業推進本部 WEB販売部 主席部員である高柳直明氏と山本裕規氏にお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 初期Webサイトの変遷

Web STRATEGY(以下、WS) 現在、多くのユーザーが利用しているANA SKY WEBですが、まずはその歴史からおうかがいします。

ANA SKY WEBのトップページ
■ANA SKY WEBのトップページ
ANA SKY WEBは、「国内線」「国際線」「ANAマイレージクラブ」「旅行」という4つのカテゴリをタブで切り替える構造。各カテゴリトップは、ユーザーの視認性を考慮して画面スクロールの必要のない程度のサイズで設計され、各情報がエリアごとに整理されている。国内線、国際線、そして旅行カテゴリに表示されるオンラインチケット予約コーナーのインターフェイスは統一されており、リテラシーのそれほど高くないユーザーでも使いやすいものとなっている


高柳氏 当社がオフィシャルなWebサイトを開設したのは、1990年代中盤です。当時はまだ私は担当ではありませんでしたが、1997年にはオンラインでの予約サービスを開始しています。現在では、営業推進本部のWEB販売部がオンライン予約販売をはじめとしたWebサービスコンテンツを統括管理していますが、当初は専用の部門があったわけではなく、少人数で始めたと聞いています。

山本氏 最初は私一人で始めたような状況でした。ほかの企業と同様に、黎明期のWebサイトは簡単な企業情報を発信する程度のものでしたね。いわゆるプロモーションツールのひとつという位置づけだったと思います。ただ、90年代中盤といえば、PCでのネットワークコミュニケーションがパソコン通信からインターネットへと大きくシフトしていった時期で、Webを使ったビジネス展開についても考えてはいたんです。

WS Webによって大きなビジネスの変革があると考えていたということでしょうか

山本氏 というよりも、これは現在でもスタンスを変えてはいませんが、当時からWebも販売チャンネルのひとつであるととらえていたんです。すでにパソコン通信時代からネットを通じたお客さまとのコミュニケーションは経験していましたし、もうひとつ別のネットチャンネルとしてインターネットが登場したということですね。

WS Webサイト上でのチケット予約サービスを開始したのは何年のことでしょうか

高柳氏 予約販売を開始したのは1997年11月ですから、かなり早い段階でEコマースへ取り組んだといえるのではないでしょうか。ちょうどマイレージサービスも同時期に開始していますから、需要喚起と同時に販売チャンネルの拡大を図ったということになります。

WS 販売チャンネルのひとつとしてとらえていたとして、どれだけの売り上げを見込んでいたのでしょうか。

山本氏 当初は目標値などは設定していませんでした。現在でもチャネルごとに詳細な売り上げ目標を立てて厳しく順守するといった方針ではなく、販売チャンネルを拡大することで全体的な売り上げにつなげるというのが基本です。ただ、Webを使ったオンライン予約を開始した当時は、まだお客さまの意識としてWebのセキュリティへの不安が強かった時代でもありました。今でこそ、多くの方がWebでカード決済をご利用になりますが、当時はWebで予約して実際にはカウンターで購入するといったこともよくある話だったんです。したがって、2000年くらいまでは、利用者は緩やかに増えていったといえます。もちろん次第に伸びてはいったのですが、自社販売分の20%程度になるまでは不安でしたね。


2 利用者の生の声を
ユーザビリティ向上に反映する


WS 当初緩やかだった利用者数の伸び率に変化はあったのでしょうか

山本氏 当社では、ネットを利用する以前から、いわゆるコールセンターを設置して電話による予約販売も行っていて、従来はそれが自社販売の主軸だったわけです。そしてWebサイトを「ANA SKY WEB」としてリニューアルを行い、Webでの積極的な予約販売を開始したのが1999年。その後、徐々にWebでの売り上げ比率が増加して、2001~2002年にかけてその比率が逆転したんです。そのころから、Webサイトの利用者数も急増してきました。

WS 利用者数を伸ばすために、どんな施策を行ったのでしょうか

山本氏 サービスを開始した当初から、大切なことは、お客さまの不安を取り除くことだと考えています。先ほども言いましたが、当時はまだ多くのお客さまがオンラインでの決済にセキュリティ的な不安を持っている時代でした。ですから、ほかの決済手段を充実させることで、その不安を取り除き、利用しやすい環境を用意していったわけです。同時に顧客サポートを充実させることも、不安を取り除く重要な施策です。

WS 今のオフィシャルサイトでも、予約申し込みをシミュレートできる体験版コンテンツなど、サポートが充実している印象を受けます

高柳氏 サービスにはお客さまに利用していただくためのサポートが重要だということは、Web以前、コールセンターが主軸の時代から意識していることです。過去から積み上げてきた経験をもとに、Webでのサポート充実も考えているわけです。体験版を用意していることもそうですが、Webサービスを利用されるお客さまのリテラシーはさまざまです。ですから、当社では2001年9月に「インターネットデスク」というWebサイトに関するご質問をお受けする専用のコールセンターを設置しました。

WS サポートコンテンツだけでなく、Webサイト自体のユーザビリティに対する評価が高いのも特徴ですね

高柳氏 Webサイトのユーザビリティに関しても、インターネットデスクが非常に貢献しています。インターネットデスクにはさまざまなご意見が寄せられますが、操作性だけでなく、コンテンツとしてわかりにくい部分などをご指摘いただくことも多いのです。そういった個別のご意見を吸い上げ、つねにWebサイト制作側にフィードバックすることで、ユーザビリティの向上につなげることができる。オンラインサービスのメインターゲットは30~40代のビジネスマンであり、インターネットに対するリテラシーもそれなりに高いのですが、当然それ以外の層のお客さまもいます。ですから、ユーザビリティに関しては、文言を表示する場所といった細かい部分まで検証して、つねに調整しているんです。

山本氏 エラー画面に表示するメッセージなんかもそうですね。インターネットの黎明期には、システム開発というアプローチが根強かったですから、ただ単に「エラー」と表示していたりしたものです。でも、それではお客さまにわかるわけがない。それ以上に不安感も持たせてしまう可能性がある。ですから、そういった文言ひとつとっても、お客さま本意で考え、適切なメッセージを表示するようにしてきたんです。

WS ユーザビリティ向上が成功の秘訣であったということですね

高柳氏 もちろんそれだけではありません。先にも申し上げたように、初期は新たなチャンネル開拓ということでプロモーションの必要性もありました。たとえば大手ポータルサイトでタイアップコンテンツをこちらから提案するといったこともしていたんです。パソコン通信時代でも大手プロバイダ内でのネットコミュニケーションを行ったりしてきましたが、こういったネット上の媒体と直接交渉して、コンテンツを企画するということを初期段階から経験していたことは大きな資産だと考えています。ただ、ある程度認知度を得ている商品、たとえば割引チケットなどに関してはリスティング広告を中心に現在は展開しています。

初心者向けのガイダンスコンテンツ
■初心者向けのガイダンスコンテンツ
オンラインチケット予約に慣れていないユーザー向けに、一通りの申し込みの流れを疑似的に体験できるコンテンツを提供。情報閲覧のしやすさや操作性の向上から、ガイダンスによるサポートまで、幅広いユーザビリティの考え方がANA SKY WEBには見ることができる


3 ターゲット層拡大のための、
新たなコンテンツ展開


WS 先ほどオンラインチケット予約サービスのメインターゲットは30~40代ビジネスマンというお話がありましたが、それ以外の層へのアプローチは?

山本氏 もちろんビジネス利用というのは主要なターゲットではあるのですが、航空券ニーズは幅広くあるわけで、より裾野を広げていく必要性は当然感じています。たとえば現在の40代ビジネスマンが今後はWebリテラシーも高い50代、60代へと移行していくわけで、そういったシニア層にもご利用いただけるようなコンテンツも必要でしょう。

高柳氏 ビジネスマン以外の層へのアプローチとしては、実際にF1/F2といわれる20~40代の女性へ向けたコンテンツや学生向けのコンテンツを、別ドメインによってサブサイトとして展開していました。また、当社の客室乗務員が旅をナビゲートする「ANA Latte」なども、ビジネスユース向けというよりも、パーソナルに旅を楽しみたい方向けのサイトです。さらに、2004年2月にはANAマイレージクラブ(以下、AMC)の会員様向けにパーソナライズサービスも開始しました。パーソナライズサービスによって、女性、学生、シニアといったセグメントからさらに踏み込んだOne to Oneの情報提供が可能となりました。ただし、セグメントごとにサブサイトを運営するというアプローチは、オフィシャルサイト全体の導線がわかりにくくなるという面もあり、2007年のリニューアルではサブサイトの整理を行い、現在のような統合化を図ったんです。

幅広いターゲットに向けたコンテンツ提供
■幅広いターゲットに向けたコンテンツ提供
メインターゲットであるビジネスユースだけでなく、女性層や学生などにも訴求するコンテンツを提供することで、より幅広い顧客からの利用獲得を目指す。「ANA Latte」は、パーソナルに旅を楽しみたいユーザー向けに、旅のプロである客室乗務員がナビゲートする


WS 継続的なユーザビリティ向上への取り組み、そしてターゲット層を広げるためのコンテンツやサービス投入が利用率向上の大きな原動力といえますが、それ以外に航空チケットという商品がEコマースと親和性が高かったということもあるのではないでしょうか。

高柳氏 そうですね。実際には各種割引チケットなどは規制緩和によって商品化が実現したのですが、結果的にはオンライン予約に非常にマッチした商品になったと思います。PCだけでなく、携帯デバイスなどでもご利用いただけますので、従来よりも格段にスピーディにチケットを購入でき、お客さまの利便性を高めることができたと考えています。また、AMC会員様向けに先行予約を受け付けるなど、特化したサービス展開も情報をスピーディにお届けできる点がWebならではといったところでしょうか。

山本氏 ITに対してはシステム的な親和性が高かったという点もあると思います。97年に国内線のオンライン予約サービスを開始した時点から、当然基幹システムとの連動は果たしていたわけですが、それ以前から当社では旅行代理店様と専用線でつながった情報システムを有していたため、Webとの接合も比較的スムーズに行うことができたといえます。もともとB to Bのための情報システムとして設計されていましたから、トランザクションなどの耐用性も十分でしたし、システム自体の汎用性も高かったんです。

ANA SKY WEBにおける国内線チケット販売実績の推移
■ANA SKY WEBにおける国内線チケット販売実績の推移
1997年11月にオンライン予約サービスを開始したANAオフィシャルサイトは、その後1999年4月にANA SKY WEBへとリニューアルして本格的なEコマースサービスを展開。2000年以降、その利用者数は右肩上がりに伸び始める。2001年9月には、オフィシャルサイトに関する質問などを受け付けるコールセンター「インターネットデスク」を立ち上げるなど、ユーザーサポートを強化。さらに04年2月にはANAマイレージクラブ会員制との連動で、パーソナライズサービスを導入。One to Oneでより利便性の高い情報・サービス提供を行っている


WS 稼働率の高いEコマースシステムと同時に、コンテンツ量も膨大なものとなっていますが、Webサイトの制作・運用体制はどうなっているのでしょうか

高柳氏 Eコマースおよびお客さま向けのコンテンツに関しては、私が所属しているWEB販売部が統括しています。グローバルサイトも含めたブランディング統一を踏まえたガイドライン作成からサービス・コンテンツのプランニングまで、基本的にWEB販売部で行います。実際の制作・運用に関しては、グループ企業である全日空システム企画(株)で行っていただいています。

WS 最後に今後の展開、特に携帯端末やデジタルTVなど新しいデバイスなどに関しては、どんなアプローチをお考えでしょうか

高柳氏 基本的なスタンスは変わりません。何よりもまずお客さまの利便性を向上させる施策を継続的に行っていくということです。現在ではインターネットデスクによってお客さまからのご意見をおうかがいしていますが、それ以前は私も直接お客さまからへのメール対応をしていたこともあるんです。その経験は現在のWebサイト運営に非常に役立っています。やはりお客さまからの生の声を、ユーザビリティ向上も含めて、サービスやコンテンツ企画に反映させることが大切だと考えています。

山本氏 携帯電話をはじめとした新たなデバイスに関しては、冒頭でも述べたようにWebと同様に新たなチャンネルととらえています。ですから、必要に応じて適宜コンテンツを投入していくことになると思いますが、今のところPCをベースとしたWebが主軸と考えていますね。したがって、今後もWebを中心にサービスや機能強化、利便性向上といった施策を行っていくつもりです。デバイス特性によって、コンテンツの見せ方は変わりますが、デバイスの特性を利用しておもしろいことをやるというよりも、あくまでもお客さまが便利にご利用いただけるサービス・情報を提供していくことが重要だと考えています。


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2008年3-4 vol.14からの転載です
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