リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第15回 オリコン | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第15回 オリコン

2024.4.26 FRI

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第15回 オリコン



オリコン株式会社 取締役
オリコンDD株式会社 代表取締役社長
米谷昭良 氏 (左)

オリコンDD株式会社
編集制作本部 本部長
吉村正史 氏 (右)

url.http://www.oricon.co.jp/


Webならではのランキングデータで
新しいサービスを提供するオリコン


1967年創業のオリコンは、ヒットランキング情報をはじめとしたさまざまな日本国内の音楽情報を提供する老舗企業であり、音楽業界のみならず楽曲やPVを視聴する一般消費者にとってもその影響力は大きい。それは信頼性の高い情報精度と、それを長きにわたって継続してきたという実績に裏づけられるもの。

現在では、音楽情報に限らず、エンターテインメントを基軸にさまざまな情報を提供。インターネットというステージを得てさらにその活動の場を広げ、新しいWeb媒体としての価値を創造している。
今回はオリコンのポータルサイトである「ORICON STYLE」の運用を行っているオリコンDD(株)にうかがい、代表取締役社長である米谷昭良さんと編集制作本部長である吉村正史さんにお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 事業ごとに分社化し、
グループ企業を形成


Web STRATEGY(以下、WS) 国内においてはヒットチャートといえば「オリコン」とだれもが知っている音楽ランキングの代名詞でもありますが、まずは現在のグループ企業構成からお聞かせください。

米谷 現在は、オリコン(株)をホールディングスとして、その子会社にオリコン・マーケティング・プロモーション、オリコン・エンタテインメント、oricon ME、オリナビ、そして当社であるオリコンDDといったグループ企業があります。オリコン・マーケティング・プロモーションは、オリコンの資産ともいえる音楽情報関連のデータベース事業およびマーケティング事業を担い、オリコン・エンタテインメントは雑誌・書籍出版事業、oricon MEでは携帯電話向けコンテンツ配信やサイトの制作・運営、また、オリナビはoricon MEの100%出資会社で、エンタテインメント業界に特化した人材紹介サービスを提供、そしてオリコンDDではORICON STYLEを中心としたインターネットメディア事業を行っています。

オリコンのグループ企業構成
■オリコンのグループ企業構成
オリコン(株)をホールディングスとして、音楽情報関連のデータベース事業およびマーケティング事業を担うオリコン・マーケティング・プロモーション(株)、雑誌・書籍出版事業を担うオリコン・エンタテインメント(株)、携帯電話向けサイトの制作・運営を行う(株)oricon ME、その100%出資会社でエンターテインメント業界に特化した人材紹介サービスを行う(株)オリナビ、インターネットメディア事業を行うオリコンDD(株)で構成されるオリコングループ


WS もともとORICON STYLEを運営するということでオリコンDDが起業されたのでしょうか。

米谷 いいえ、違います。オリコンDDは、オリコン・デジタル・ディストリビューションの社名では2004年にオリコンの完全子会社として設立されました。当初はPCユーザー向けに音楽CDやDVDなどのセールスランキング情報「オリコンランキング」と連動した音楽ダウンロードサービスを提供することを目的として事業を開始し、そのサービス自体をORICON STYLEに提供していました。もともとORICON STYLEの運営はオリコン・エンタテインメントが行っていたのですが、2005年にはWeb事業をオリコンDDへと移管し、現在のようにオリコン・エンタテインメントでは紙媒体、オリコンDDでWeb媒体という棲み分けになっています。また、2006年にはPC向けの音楽ダウンロードサービス事業を終了し、バナーやタイアップを中心とした広告メディア事業へと移行しています。さらに2007年にはヤフーとの資本提携によって、オリコンの完全子会社からヤフーの持分法適用会社となっています。事業形態としても独自の情報以外に、ヤフーへの情報提供、またヤフーのサービスとの連動なども検討しています。

ORICON STYLE
■ORICON STYLE
オリコンのインターネットメディア事業の中心である「ORICON STYLE」。主要メニューとして、ニュース、ランキング、ミュージック、ブログなどが用意されている


2 独自のWeb媒体として
成功を収めるORICON STYLE


WS 公式サイトが立ち上がったのは何年ごろのことなのでしょうか。

米谷氏
公開されたのは1997年のことです。いわゆるコーポレートサイトとして、企業基本情報に加えて簡単なランキング情報を掲載することから開始しました。その後、雑誌媒体などをフォローするかたちで、ランキングなどの拡充を行っていきましたが、2004年あたりまでは視覚的なデザイン性や情報量を増やすことに注力して、Webサイトで何をすべきかといった視点なく運用をしていたと思います。

WS 現在でも膨大な情報量がORICON STYLEの特長のひとつと思われますが、現在のようなカテゴリ化が行われたのはいつなのでしょうか。

米谷氏 現在のようなカテゴリが構築される以前、2004年に第1回目の大きな転換期を迎えたんです。そのころから、公式サイトを単にコーポレートサイトとして運営するのではなく、媒体として活用することを重視し始めたといえます。

WS 媒体として広告掲載を意識し始めたということですね。

米谷 そうですね。公式サイトのコンテンツを整理すると同時に、媒体価値を高め、広告収益というビジネスモデルを確立しようと考え始めたわけです。それを踏まえてのリニューアルだったのですが、当初は私も紙媒体の営業出身ということもあって、大きな失敗もあったんです。

WS 失敗というと?

米谷 2004年4月に最初のリニューアルを行ったんですが、エンターテインメントを中心として情報配信するメディアとして格好いいものでなくてはいけないという意識が強く、しかも紙媒体的なエディトリアルデザインが必要と考えていたんです。そこまではよいとして、そこから選択したのがオールFlashサイトだったんです。当時、ブロードバンドも広がり始めていたという状況もあり、Flashのみでいこうと決めたわけですが、オープンしてみると非常に動作が重い。特にランキング情報へのアクセスが過多となり、半日程度ダウンするという最悪な事態にも直面したんです。それで2カ月後にはデザイン変更を余儀なくされました。

WS その失敗を経て、現在のサイトの基本設計が構築されるわけですね。

米谷 ええ。2004年当初のリニューアルに際しても、Webとは何かから勉強を始めてはいたのですが、結果を出せなかった。ただし、その失敗から学ぶことは大きかったと思います。Webならではのユーザビリティやアクセシビリティ、またサイト内での滞留や情報経路をわかりやすくするといった導線・ナビゲーション設計が重要だということを学んだわけです。そこで同年の8月には「ORICON STYLE」に表記を一新して、コンテンツの再整理も加えて本格始動したのです。

WS ORICON STYLEでは、ユーザビリティやアクセシビリティが強く意識されたということでしょうか。

米谷氏 もちろんそうなのですが、そればかりではありません。オリコンが提供する情報はエンターテインメントですから、それなりの体裁というか、見栄えは必要です。ある意味“オリコンらしさ”を演出することで媒体としての個性、差別化を図る必要がある。したがって、ユーザビリティ・アクセシビリティを意識しながらも、テキストだらけでは“オリコンらしさ”が表現できない。画像も多少多めに配置し、Flashも適宜に設置。エンターテインメントサイトらしく、全体的に明るいイメージを提供する方向性でコンセプトをつくり上げていきました。

WS その後は、広告モデルというWeb媒体として躍進するわけですが、その成功の秘訣は何だったのでしょう。

米谷氏 ORICON STYLEは当初、オリコン・エンタテインメントが発行している紙媒体のフォローという消極的な活用から始めたわけですが、2004年のリニューアルでWeb媒体の運用という明確な路線を打ち出しました。つまり紙媒体を売るためのプロモーション活用ではなく、独立した媒体としてWebを考え直したことが成功へとつながる一歩だったと考えています。同時に、オリコンが長年に渡って蓄積してきたランキングデータという情報リソースが、インターネットと高い親和性があったということも大きなアドバンテージだったと考えています。もちろん“オリコン”というブランド力も含めて。

WS 情報収集や記事作成に関して、オリコン・エンタテインメントとの共用ということはないのでしょうか。

米谷 これは当初からWebを独立した媒体ととらえていましたので、Web専門部隊として当社内で編集・制作を行っています。2004年リニューアル当時は、まだWebに対する不信感などもありましたが、Webの価値が次第に認知されるようになってくると、特にアーティストの中にはWebでこそやりたいという人も増えてきました。2005年にケツメイシの「さくら」のPVをORICON STYLEで先行フル視聴という当時としては画期的なサービスを展開し、2日間で300万ストリーミングという結果を生み、その成功によってWebのプロモーション的利用価値が十分に認知されたと実感しました。現在では、編集部隊による独自の取材や情報収集もスムーズに行うことができ、また独自の部隊を内包することでよりオリコンらしいコンテンツを提供することができていると考えています。


3 CSランキングという
新たなリソースとソリューションの展開


WS 現在、ORICON STYLEでは音楽ジャンル以外に、ビューティやグルメ、キャリアなどさまざまなカテゴリでの情報提供を行っていますが、この展開はいつごろから始まったのでしょう。

吉村氏 音楽以外のカテゴリでもランキング情報を提供しているのですが、これは当社の新情報リソースである「CSランキング」の開始に伴って用意したものです。

CSランキングとカテゴリ
■CSランキングとカテゴリ
オリコンの新しいランキング情報である顧客満足度を指標化した「CSランキング」。ORICON STYLEサイトでは、カテゴリ別のCSランキング情報と連動広告を掲載。音楽以外にもカテゴリを広げ、ビューティやキャリア、ライフなど幅広いユーザーニーズを掘り起こし続ける


WS CSランキングとはどういったものなのでしょうか。

吉村氏 CS(Customer Satisfaction)とは、いわゆる顧客満足度のことですが、さまざまなジャンルの事象に対して、その顧客満足度を調査してランキング化するというのが「CSランキング」です。たとえば、任意の英会話スクールに関して実際にその顧客(生徒)の満足度を調査し、その教室を10段階で評価します。これはユーザーの主観的な評価ではありますが、実際の生の声でもあるため、良いサービスを選ぶためのひとつの指標となり得るものです。このCSランキングは現在23ジャンルで提供しているのですが、これに対して連動型広告を展開しています。

WS インターネットのバイラル効果を考えると、非常に親和性の高いランキングデータといえると思いますが、このサービスを展開した狙いは?

吉村氏 オリコンは現在、従来の音楽だけにとどまらない総合ランキングブランドを目指しています。そこで、Webならではのランキングを使った事業展開は何か? ということからCSランキングは生まれました。おかげさまで、このCSランキング連動型広告は売り上げの1/3程度まで成長しています。

WS CSランキングという新たな情報サービスで総合ランキングブランドとしての第一歩を踏み出したわけですが、今後のWebならではのサービス展開はどう考えているのでしょうか。

吉村氏 今年3月から「Myプロフ」というサービスを開始しました。今まではオリコンからの一方的な情報提供でしたが、このサービスはユーザーのWeb活用の大きなメリットである情報交換を支援するプラットホームを提供するものです。CDやDVD、書籍など世の中にあるエンターテインメント系作品すべてに関して、ユーザーは個人のレビューなどを書き込めます。同時に、その書き込みは評価され、ユーザーランキングとしてサイトに反映されるんです。Web2.0的なサービスですが、ユーザー同士のつながりに加え、アーティストとのつながりなど、オリコンならではの特性を持たせていきたいと考えています。

米谷氏 また、oricon MEとの共同事業として、モバイルサイト運営の充実化も目指しています。現在、モバイル向けサービスは、着うた(R)販売といったダウンロードサービスに注力していますが、オリコングループの要でもあるランキング情報を有効活用しモバイルでもメディア事業に力を入れていきたいと考えています。その一環として、8月から「モバゲータウン」にエンタテインメントニュースなどの情報を配信し、その記事内で当社のモバイルサイトにリンクしていただくことになりました。モバイルの活用に関してはまだまだ研究途上ですが、今後はより多くのユーザーがモバイルで情報を得ることになると思います。たとえばCSランキングも、モバイル上ではよりセグメントを狭めたまったく別の切り口でのランキングなど、ユーザーのニーズに合わせたランキング情報が提供できるのではないかと考えています。実は「Myプロフ」に関しても、ユーザー自身の属性を生かした“Myランキング”を実現したいと思っているんです。ユーザー同士で交換される情報を整理し、ひとつの集計結果としてランキングという指標を提供する。それが、オリコンがWebで提供する2.0的サービスだと考えています。

ユーザーからの情報発信を支援するプラットホームの提供
■ユーザーからの情報発信を支援するプラットホームの提供
新たなサービスとして展開する「Myプロフ」は、ユーザー自身の属性を反映したランキング情報を模索中。また、オリコンの原点でもある音楽に関してユーザー同士で生の情報交換・レビュー交換が行える「音楽を語ろう」なども展開。さらに個人的レビューなどをもとに、ユーザー自身をランキングするサービスも展開


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2008年9-10 vol.17からの転載です
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