リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第8回 資生堂 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第8回 資生堂

2024.4.20 SAT

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第8回 資生堂






株式会社資生堂
お客さまセンター Web企画推進グループ
グループリーダー
久保 光司 氏


独自の美の哲学の敷衍とユーザーとの
接点として進化を続ける資生堂ウェブサイト


明治時代に洋風調剤薬局として東京・銀座にて創業された資生堂は、主力商品を薬剤から化粧品へと移行したのち、戦略的なマーケティング展開と先進的な広告戦略で巨大企業へと成長。今や国内だけでなく、世界有数の化粧品メーカーとして業界を先導する。

その成長を支えたひとつの要因が、「ミーム」という言葉で表現される資生堂独自の美へのこだわり。現代においては、化粧品という美を追求する商品メーカーとしては当然ともいえることではあるが、大正・昭和という時代の中でつねに先進的な広告・プロダクトデザインを求め、さらに企業文化活動にも積極的であった資生堂は、またインターネット黎
明期からメッセージ性豊かなWebサイトを展開してきている。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 資生堂の美に対する哲学と、
Webの変遷


Web STRATEGY(以下、WS) まずは、最初にWebサイトを公開した経緯をお聞かせください

久保氏 いちばん最初に公開した資生堂のWebサイトは「サイバーアイランド」と命名されたもので、公開は1995年でした。同年は阪神・淡路大震災があり、その際にインターネットが安否確認などに活用されるなど、インターネット自体が非常に注目を集めた年でもあります。そのような世情の中、当時社長であった福原義春氏(現・名誉会長)がある会議中に「資生堂のホームページはどうなっていますか?」というひと言をきっかけに社内有志によってWebサイト制作が始まったと聞いています。ただし、あくまでも有志の集まりであり、公式なプロジェクトではなかったのです。インターネットへの関心が高まったとはいえ、当時はまだマーケティング的な利用価値は評価されているとはいえない状況で、各ブランド部門からの情報提供も積極的ではなかったといいます。したがって、社内での情報収集に苦労したらしいのですが、すでにメディアとして確立していた「花椿」誌や企業文化活動の担当部門からは積極的な協力が得られ、結果的に資生堂の企業文化的な情報をメインとしてメッセージ性の強いコンテンツで構成されたのです。

WS 資生堂といえば広告デザインや文化活動を通じて、美の哲学の普及に積極的であるというイメージがあります

久保氏 資生堂は起業当初から美の哲学や意匠デザインへのこだわりをもっていた企業といえると思います。資生堂の起業は1872(明治5)年のことですが、その後、主体事業を化粧品へと移し、1916(大正5)年には意匠部を設置して、ポスターデザインをはじめとした宣伝活動にも積極的に乗り出しています。これは初代社長である福原信三氏が意匠デザインの重要性を認識していたことの表れですが、この志向が資生堂という企業DNAとして受け継がれているわけです。

WS 当初はインターネットも企業文化活動の一環の中で展開されていたのだと思いますが、その後どう展開したのでしょう

久保氏 2000年に第一次リニューアルを迎えました。実はこのときに、資生堂社内でも正式に公式Webサイトとして認められたんです。サイバーアイランドでは青を基調とした独自のカラーリングだったのですが、このリニューアル時にコーポレートカラーでデザインの統一が図られました。また、インターネットのマーケティング的価値も認識され始めていたことから、サイバーアイランドのときとは違って、今度は一気にブランドが集結してきました。多くの部門からさまざまな情報が提供され、その結果、数々のコンテンツが次から次へと増築された状況になったため、2002年には第二次リニューアルを行って掲載情報を5つのカテゴリに整理しました。

WS 第二次リニューアルサイトでFlashを採用していますね

久保氏 資生堂の公式サイトとしてのデザイン性を追求した結果がFlashインターフェイスだったわけですが、当時のネット環境では、ユーザーから「情報アクセスがしにくい」「ナビゲーションがわかりにくい」といった声も寄せられたんです。そこで2004年に第三次リニューアルを迎え、テキストを主体としたポータル的なデザインへと変更されました。資生堂としてのデザインへのこだわりとアクセシビリティ性の確保の両立にチャレンジしたリニューアルだったともいえますね。

資生堂ウェブサイトの変遷
■資生堂ウェブサイトの変遷
初期の「サイバーアイランド」では、文化活動や企業メッセージを主体とした実験的なサイト展開であったが、第一次リニューアルでは公式サイトとしてコーポレートカラーを基調としたデザインへと変わる。さらにアクセシビリティなどへの関心の高まりと同時にテキストを中心としたポータルサイト化した時期を経て、現在は企業メッセージと新たなブランドの訴求とユーザーとのコミュニケーションを主体とした機能性・デザイン性を追求したサイトデザインへと進化している。


2 現在の資生堂サイトと
コミュニケーション戦略


WS 現在のトップページはFlashをメインとしたインターフェイスが再び採用されていますね

久保氏 現在のサイトデザインに変わったのは2006年9月のことですが、これが第四次リニューアルとなります。資生堂としてのメッセージとブランド訴求などを主体としたリニューアルだったのですが、この施策はWebサイトに限ったものではありません。資生堂では、2005年6月に代表取締役執行役員社長に就任した前田新造新社長のもと、ブランドの再構築というマーケティング改革に着手しています。CMでも話題となった「ツバキ」や「マキアージュ」といった新たなブランド展開で具体化していますが、すべての基本となるのは「100%お客さま志向」の会社となることにあります。以前は100以上もあったブランドを30程度まで整理統合し、さらに「マキアージュ」のようなメガブランドを立ち上げることで、お客さまから長く愛されるブランドへと成長させていきたいと考えています。この改革は社内的な部門統合を図るだけでなく、流通や小売店なども含めて商品ライフサイクルのすべてにわたって行われるもので、その意味でお客さまとの接点ともなるWebサイトにも新たな改革が必要だったわけです。

WS 新しい企業メッセージの発信と整理されたブランド訴求。それ以外のリニューアルの目的は何だったのでしょうか

久保氏 資生堂では「100%お客さま志向」のために、Webサイト運営に関して3原則を設けています。まずはお客さまに対して企業および商品ブランド情報を正確かつ魅力的に発信すること。たとえば現在のトップページには新しい企業メッセージである「一瞬も 一生も 美しく」をイメージとともに掲載し、同時にブランド情報へのニーズに対してはFlashインターフェイスによってスムーズにナビゲートすることを実現しています。次にお客さまとの絆づくりのための双方向コミュニケーションを図ること。これはおもにネット会員の統合を図り、会員さまとのコミュニケーションを強化して、お客さまのご意見などをマーケティング側へとフィードバックできる役割をWebサイトで担うというものです。そしてもうひとつがブランドの強化であり、これはリアルなマーケティングとも連動するものですが、コミュニケーションによって得られたお客さまのご意見を商品開発やサービスへと取り入れ、お客さま主体のブランドへと成長させていくことです。

WS ネット会員への取り組みは早くから行われていたようですね

久保氏 すでに1997年に「+W・+Mメンバー」というネット会員制の仕組みを導入しています。それ以前から資生堂では「花椿クラブ」というリアルな会員組織があるのですが、これは販売店さんがご愛用者のデータを活用しているもので、資生堂としては全体を把握していたとはいえないのです。資生堂としてもお客さまと直接コミュニケーションを図ることを重視してネット会員という仕組みを導入したのです。

WS ほかの企業ではブランドやキャンペーンごとにメルマガ会員などを募ることも多いのですが、資生堂のネット会員はすべて一元的に管理されていますね

久保氏 はい。これは重要なことだと考えています。「100%お客さま志向」ということにもつながりますが、お客さまにとっては商品やサービス単位ではなく資生堂という企業とお付き合いいただいています。商品が違うから入り口も違うというのは企業側の都合であって、お客さまにとっては違う。どのサービスでも同じ会員IDで利用することができるというのが、まずは基本だと考えています。同時に一元的に管理することで、お客さま情報に対する高いセキュリティを確保することも実現しています。

WS 現在のネット会員のメンバー数はどの程度でしょうか

久保氏 3月末時点で100万人到達まで成長いたしました。会員の属性としては20~30代の女性で化粧への意識も高いため、ネット会員さまとのコミュニケーションは重要だと考えています。毎年ネット会員さまの中から1万人の方にモニターとなっていただき、商品企画開発への参画をお願いしているほか、マーケティングの現場社員との直接のコミュニケーションが図れる仕組みも導入しているんです。たとえば資生堂では社員一人ひとりが専用端末PCを所有していますが、この専用端末から独自のアンケートページを作成してWebにアップすると同時に属性によってセグメント化したネット会員さま向けにメールでアンケートのご協力を依頼することができます。また、ネット会員さまが専用のアバターでチャットなどを楽しめる「ChatterBox(チャターボックス)」というサービスも提供していますが、このスペースには資生堂社員も参加することができ、お客さまとの直接のコミュニケーションを図っています。実際に商品企画などに際しても、ChatterBoxを通じて頂戴したご意見を取り入れることもあり、特にニッチな要件に対するニーズなどを聞きやすいスペースだといえますね。この仕組み自体は2004年5月ごろから導入・実施していますが、回答率が50%以上と高いこともあり、現在では年間100件程度活用されています。

ほかにも、セミナー開催に際しては、地域でセグメント化した会員ユーザーさまにご案内メールをお送りすることもでき、リアルな手法とは桁違いに効率的な集客が実現されています。

資生堂オフィシャルサイト トップページ(www.shiseido.co.jp/)
■資生堂オフィシャルサイト トップページ(www.shiseido.co.jp/
現在のトップページでは、新しい企業メッセージである「一瞬も 一生も 美しく」をイメージとともに掲載。ここで掲載している映像イメージは昨年8月に1日だけ放映したCM映像。たった1日の放映であったが、それに対するお客さまからの反響が大きく、その声に応える形で展開している。上部には大きな情報カテゴリを5つとネット会員用コンテンツへの入り口となるボタンを配置。画面中央にはFlashコンテンツとしてブランドコンテンツへの移行ボタンをオンマウスで表示するなど、スムーズなナビゲーションを提供している

資生堂ChatterBox(チャターボックス)
■資生堂ChatterBox(チャターボックス)
ネットユーザーがそれぞれ独自のアバターを使って参加するコミュニティコンテンツ。チャットには資生堂社員が参加することもあり、商品開発に関するテーマでチャットを呼びかけることもある。ネットユーザーとのコミュニケーションが商品企画に生かされることもあるという


3 お客さまと直接対話する
タッチポイントとしてのWeb


WS Webサイトの運用体制や開発管理はどうされているのでしょう

久保氏 基本的には統一のヘッダー・フッターデザインの枠組みの中で、各ブランドコンテンツが展開されるような仕組みを用意していますが、がちがちのガイドラインを定めているわけではありません。インターネットの技術的進化のスピードは速いですから、むしろガイドラインを固めすぎるのはどうかな?と思います。また、各ブランドはそれぞれ個性をもっており、その個性を最大限に発揮するべきだと考えているんです。その意味では、ベーシックなガイドラインを用意して、あとは各ブランド担当者の裁量で運用していくのが基本ですね。もちろんデザインワークに関しては、宣伝制作部が意匠管理を行うなどの監督を行っていますが、実際の制作にあたっては、ブランド担当部門が外注先の選定から発注までを決定しています。

ブランドコンテンツ
ブランドコンテンツ
■ブランドコンテンツ
資生堂の各ブランドコンテンツも基本的にはオフィシャルサイトの枠組みの中で展開し、独自のウインドウで展開されるものはほとんどない。ただし、ガイドラインでのしばりが厳しいものではなく、画面下部のフッターおよびメニューの構造設計を統一するにとどめる。ブランドはその個性を発揮することが重要だという


WS 更新作業にはCMSなどを活用されているのでしょうか

久保氏 いえ。CMSは現在のところ導入していないんです。というのも、独自性の強いコンテンツが多いため、CMSで一元的に管理できるとは考えていないからです。もちろん部分的な導入はあり得ますが、現在のところ簡易なカレンダーツールを利用した手作業による更新が、むしろ効率的と考えています。

WS お客さまセンターという部門でWebサイトの管理を行っているというのも資生堂独自のスタンスですね

久保氏 Webサイトは基本的にお客さまとの直接の接点となるコミュニティだと考えています。したがって、お客さまとのコミュニケーションを担当する部門が管理するのは当然のことなんですね。Webサイト管理部門がお客さまセンターの中に設置されたのは1999年のことですが、ちょうど「お客さま満足度を向上させる」CS活動を積極的に展開しはじめる時期でもあったのです。

WS 最後に今後の資生堂ウェブサイトの展開についてお聞かせください

久保氏 お客さまに対して資生堂としての企業メッセージをより積極的に訴求していく方向を明確に打ち出していきたいと考えています。いわゆる商品情報などを提供する企業サイトというレベルから、化粧品メーカーとしての企業メッセージを強め、ビューティサイトへと成長させたい。美容に関する情報・サービスを拡充し、一方、クロスメディアによるパーソナルなコミュニケーションにより、お客さま一人ひとりにアプローチできるようにしたい。携帯電話なども含めてダイレクトコミュニケーションが図れるツールへと進化させていきたいと考えています。

資生堂のWeb運営における三原則
■資生堂のWeb運営における三原則
エンドユーザーに対して企業メッセージおよび商品ブランド情報を正確かつ魅力的に発信し、同時にコミュニケーションを積極的に図ることで商品・サービスの企画開発にも参画を促す。さらにコミュニケーションを通じて得られたニーズをマーケティングにフィードバックすることで、よりお客さま満足度の高いブランドへと成長させる。このサイクルを繰り返すことで、長く愛されるブランドを育てると同時に企業成長も促す。これはWebサイトという、エンドユーザーに密着したタッチポイントを有効に活用することで実現される。


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2007年5-6 vol.9からの転載です
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