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リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第5回 味の素

2024.4.24 WED

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第5回 味の素






味の素株式会社
コーポレート・コミュニケーション部
棗田眞次郎 氏



商品情報を正確に伝えること
それが自社媒体であるWebの使命


日本人ならだれもが知っている食品メーカーの味の素(株)。最近では、定番商品である「うま味調味料『味の素』」の容器をパンダデザインにした「アジパンダ」キャンペーンでも話題を呼んだが、それ以外にも日本の食卓に本格中華の味を広めるきっかけとなった「Cook Do」や朝食に手軽に摂れる「クノール」のスープ、今や日本の食卓には欠かせない商品を送り出している。しかし、その歴史は消費者に対して商品情報をいかに正確に伝えるかをつねに考え、実践していくことの繰り返しであったという。

そして現在。味の素(株)はWebサイトという自社媒体をもつにいたった。すべてを自社でコントロールできる媒体であるからこそ、より正確な情報を掲載し、同時にそこで発せられるメッセージをいかに効果的に伝えるか。そして、読者が自発的に見にくることで初めて見てもらえるという、受け身のメディアであるからこそ、消費者をメッセージへナビゲートするコンテンツや仕組みが要求されるはずだ。

そこで今回は、味の素(株)のコーポレート・コミュニケーション部 棗田眞次郎氏に、味の素(株)のWeb戦略についてお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 '90年代のWebサイト公開当初から
インタラクティブ性に注目


Web STRATEGY(以下、WS) 現在の味の素(株)のWebサイトを拝見すると、膨大なコンテンツ群で構成されていることがわかります。商品ブランドごとのコンテンツからレシピなどのサービスコンテンツ、そしてEコマースや会員制コンテンツなど、さまざまなコンテンツが整理されて提供されていますが、まずはここにいたるまでの経緯をお聞かせいただけますか。

味の素(株)のWebサイトトップ
■味の素(株)のWebサイトトップ
現在では膨大なコンテンツ量を誇る味の素(株)Webサイト。トップページはアクセシビリティに対応し、テキストベースですっきりとまとめている。膨大なコンテンツもシンプルなメニューカテゴリへとまとめることでナビゲーションにも優れたデザインとなっている


各ブランドサイトトップ
各ブランドサイトトップ
各ブランドサイトトップ
■各ブランドサイトトップ
トップページで<商品情報>をクリックするとまずはインデックスページとなり、ここから各商品ブランドごとに専用コンテンツへとリンクする。各ブランドサイトでは、企業イメージを統一するためのヘッダーデザインなどがレギュレーションとして定義されるのみで、コンテンツの内容・デザインは各主管ごとの管理となっている


棗田氏 味の素(株)のWebサイトが公開されたのは1996年4月です。その前年ごろから企業としてWebサイトをもつべきだといった意見が社内からも上がるようになり、95年の秋にはサイト制作に取りかかっていました。当時はまだインターネットの存在がようやく認知され始めたころで、多くの企業はまだ今のようにWebをメディアとして位置づけてはいませんでした。Webサイトを公開しているのも一部の企業だけ。当社でも、企業として必要性を感じたというより、一部の先行者が必要性を訴えていたという状況でした。

WS 最初のWebサイト公開に向けては、どのようなコンテンツ展開を想定されたのでしょう。

棗田氏 当時はWebサイトを公開している企業の多くが単に企業案内をWebに載せ替えただけといった状況でしたし、Webサイトをもつといっても、他社がもっているからうちももたないとまずいよね……といった認識だったと思います。ホームページをもっていない企業を“ホームレス”と呼称したりしていたような状況ですから。当然、当社内でも同様の認識だったんです。ですから、当初は主管となる部署もなかったですし、企業としてWebサイトを重視していなかったということもあり、まずは財務や人事、営業、情報システムといった各部門の有志が集まって編集会議なるものから始めたんです。そこでどういうホームページがいいんだろうと議論をしました。議論の結果、単に会社案内を掲載するだけでは意味がないだろうという結論にいたったんです。情報を発信するのであれば、ユーザーにとって役立つ情報を提示すべきだろうと。さらに何らかの形で、インタラクティブなものにしたいと。

WS 当時からWebを使ったコミュニケーションを意識していたということでしょうか。

棗田氏 具体的なコミュニケーションまでは意識していなかったと思います。ただ、情報を発信するだけではなく、ユーザーニーズのフィードバックを得られるようなものは考えていました。では、コンテンツとしてはどんなものがいいのか。当社は食品メーカーですから、食に関する情報を提供するのが自然だろう。同時に「夕食の献立に悩みますか?」という主婦の方々へのアンケートの回答の多くが「はい」もしくは「どちらかといえばはい」という結果もあった。そこで「レシピ」というコンテンツを掲載しようということになったんです。一方的な情報発信ではなく、ユーザーニーズに応えるコンテンツを掲載することで、ユーザーから何らかの反応があると考えたんです。

WS 味の素(株)のレシピコンテンツといえば、現在でももっとも人気のあるコンテンツですよね。最近ではさまざまなレシピサイトが立ち上がっていますが、今でも人気ランキングではトップにランキングされる。当初から、レシピコンテンツの芽があったということですね。

棗田氏 当初から、ユーザーに役立つ情報を提供するという意識があったからこそでしょうね。96年4月に公開した最初のWebサイトは「A Dish」というタイトルで、テーブルにお皿を配置してそれをメニューとするものでデザイン的にも特徴的だったと思います。また、当初からメールボックスを配置して、ユーザーからのメールを受け付けるようにしていたんです。当時、企業サイトでメールアドレスを掲載しているケースは少なかったと思いますよ。ただ、われわれとしては双方向性を重視していたんです。


2 企業情報から周辺情報を網羅する
コンテンツ強化


WS 96年にWebサイトをオープンしたのち、社内でのWebサイトへの認識はどう変わっていったんでしょう。

棗田氏 すぐには変わらなかったですね。ただ、2年後の98年になって、ホームページが企業の顔といった認識にいたり、広報部でコントロールするようになったんです。ちょうどインターネット人口も1,000万人を超え、次第に市民権を獲得し始めたという背景もあります。そして現在は、Webが消費者との接点になりうるという認識が確立されました。

WS 自社メディア的な機能性を認識するようになったのはいつごろからですか。

棗田氏 当社では、メディアという認識は、サイトオープン当時からもっていました。2000年ごろには、Webは一般的に使われる情報ツールであり、メッセージを伝るためのメディアであるということを、さらに強く認識し始めました。そして、2000年11月にトップページを全面リニューアルしているのですが、このときに「レシピ大百科」のキラーコンテンツ化も図りました。同時に消費者とのコミュニケーションを図るコンテンツとして2001年にはCLUB AJINOMOTOといったコミュニティサービスもスタートしたんです。そこから3年くらいかけて、さまざまなコンテンツ強化およびシステム的な強化を図っていきました。

企業活動を支援する周辺情報コンテンツ 1
■企業活動を支援する周辺情報コンテンツ 1
「レシピ大百科」は味の素(株)サイトでもっとも人気のあるコーナー。数あるレシピサイトの中でもつねにランキング上位となる人気コンテンツだ。食品メーカーとして食に関連する情報提供を行い、同時に商品の使い方を提案するなど営業支援コンテンツとしての意味合いもある

消費者とのコミュニケーションを図るためのコンテンツ 1
■消費者とのコミュニケーションを図るためのコンテンツ 1
ユーザーとの直接のコミュニケーションを図るためのコンテンツがCLUB AJINOMOTO。メールマガジンによる情報発信と同時に、ポイント制を採用した会員特典を提供


WS コミュニケーション以外にはどのようなコンテンツを強化していったんでしょうか。

棗田氏 03年には「アミノ酸大百科」を開設しています。また、04年には、ちょうどブログが普及し始めたことを受けて、更新性の高いコンテンツとしてブログを利用したレシピコンテンツ「マヤヤのお料理ABC」もスタートしています 。ほかにもこの年にはライブカメラを使って、北海道のコーン畑から「クノール」スープの原料であるコーンの生育の様子をライブ映像配信するといった、当社の原材料へのこだわりを消費者に伝えるなど、さまざまなコンテンツ展開をしています。

企業活動を支援する周辺情報コンテンツ 2
企業活動を支援する周辺情報コンテンツ 2
■企業活動を支援する周辺情報コンテンツ 2
「アミノ酸大百科」はアミノ酸のリーディングカンパニーならではの、アミノ酸の百科事典。アミノ酸の種類とその特徴、摂取の仕方や製法などを紹介。「ミセスマミー」は「うま味」や商品「味の素」についてわかりやすく紹介しているサイト

消費者とのコミュニケーションを図るためのコンテンツ 2
■消費者とのコミュニケーションを図るためのコンテンツ 2
ブログというひとつのメディア機能を味の素(株)は積極的に活用。キラーコンテンツとしてのレシピをさらに推し進めて、消費者同士がレシピ情報交換を行えるように展開されている「マヤヤのお料理ABC」

消費者とのコミュニケーションを図るためのコンテンツ 3
■消費者とのコミュニケーションを図るためのコンテンツ 3
食品メーカーとして、原材料関連情報を消費者に提供するのは必須という現在、味の素(株)ではブログを使って消費者と原材料生産者とを結びつけるという積極的な展開を行っている


3 正確な商品情報と商品周辺情報の提供により
企業活動を支援する


WS 企業情報以外の周辺情報を強化していくにあたっては、当然売り上げへの貢献といったことがあったわけですよね。

棗田氏 そうですね。実際にWebサイトを使って売り上げを得るという考えではないんです。いわゆるEコマース的なコンテンツも掲載してはいますが、現在は「アミノバイタル」や「Jino」のようにネットに適した商品に限ると考えています。「味の素」などの食品については、単価も安いですし、消費者が大量購入するタイプの商品ではないから、Eコマースがすぐに既存の市場に変わるということはないでしょう。ですからレシピをはじめとした周辺情報コンテンツに関しては、企業や商品イメージを伝えるというメッセージ的な役割のほうが大きいと考えています。というのも、当社ではWeb以前から、周辺情報を意識した営業やマーケティングを行ってきたという経緯があるからです。ある意味、創業当時から行ってきたことなのですが。

WS 商品を販売するために、消費者に対して周辺情報を伝えるという活動でしょうか。

棗田氏 そうですね。会社の歴史として、そういう活動をずっとし続けているわけです。「味の素」という商品はそれまで世の中に存在しなかった食品ですから、発売当初は、それがどんなものなのか、どうやって使うのかといったことを消費者に知ってもらう必要があり、商品を訴求するための新聞全面広告なども創業当時からやっているのです。そのほか、商品を紹介するために店頭で実演販売をするとか、そういった活動を100年ほど前から行っています。

WS なるほど、売り上げを伸ばすための情報提供だけでなく、商品情報そのものをより正確に伝えるという活動をつねにしてきたといことですね。

棗田氏 Web以前は、マスに情報提供するには新聞やテレビ、雑誌といった外部媒体を使うしかなかったわけで、企業として伝えたい情報が十分に伝わらなかったりすることもあったわけですが、今はWebサイトがあります。Webサイトはいわば自社メディアですから、その意味ではより正確な情報を掲載する必要があり、また消費者にも理解しやすい形で情報を提供しなければいけない。それが「アミノ酸大百科」だったり、使い方を具体的に提案するレシピコンテンツだったりするわけです。

WS ただ、ブログを利用したコンテンツなど、コメントやトラックバックによって不適切な情報が紛れ込む可能性もありますよね。

棗田氏 ええ。それはもちろんなのですが、ユーザーのネットリテラシーは以前に比べればだいぶ向上していると思うんです。また、ネットには自浄作用があると考えています。すでに多くのネットユーザーは情報の真偽を見分けるだけの目を持っていると思いますね。ですから「マヤヤのお料理ABC」でも最初からコメントやトラックバックを許可してコンテンツを公開しています。実際に情報は自浄作用によって淘汰され、良質な情報が集約されてきていると思います。


4 情報を伝えるためのメディアとして、
つねに進化を続ける


WS 自社媒体としてのWebのメディア性を意識しはじめたのはどの時点からなのでしょう。

棗田氏 より強く意識しはじめたのは2003年あたりですね。インターネットで情報を検索するというのが当たり前となり、またブログのようなパーソナルメディアが普及していることを背景として、企業サイトとして発信する情報には今まで以上の重要性があると考えています。そのためには発信している情報にアクセスしてもらわなければいけない。現在、多くのユーザーがYahoo! JAPANやGoogleなどの検索エンジンで情報を探すわけで、その意味ではSEO対策も必要。また、コンテンツ自体もテキストベースで情報を提供することがアクセシビリティとしても重要です。そういうこともあって、2005年には従来のグラフィックデザイン優先のトップページからテキストを中心としたデザインへとリニューアルを行いました。

WS リニューアル時には各ブランドコンテンツのレギュレーションなども進めたのでしょうか。

棗田氏 そうですね。レギュレーションについては、企業ブランドとしてのイメージ統一を図るといったことにとどまっています。というのも商品ブランドごとに膨大なコンテンツがあるわけで、ある意味それらすべてをレギュレーションで固めてしまう必要はないと考えています。したがって現在では、各ブランドごとに、その内容としてのコンテンツおよびデザインは各主管ごとの管理となっています。そういう意味ではコーポレート・コミュニケーション部はマンションの大家のようなもの。各部屋ごとに自由にレイアウトしていいわけですが、企業として発信しなければいけないメッセージに関しては、ここでコントロールする。ただ、もちろんナビゲーションなどが統一されていないなど、ユーザビリティ的には問題が生じる可能性もあります。それは逐次、ユーザーニーズを考慮して対処するべきで、現在でもグループサイトとしてのあり方やグローバルサイトとしてのあり方はつねに議論し、これからも進化させていくものと考えています。


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2006年9-10 vol.5からの転載です
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