リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第18回 日清食品 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第18回 日清食品

2024.4.25 THU

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第18回 日清食品





日清食品ホールディングス株式会社
管理本部 広報部 係長
松尾知直 氏(右)

日清食品株式会社
宣伝部
三宅隆介 氏(左)

Webならではのメディア的特性を
積極的に利用する日清食品


1948年に創業された日清食品。世界初のインスタントラーメンとして誕生し、現在でも多くのファンを持つ“チキンラーメン”は、食文化に新たな時代を迎えたともいわれる発明品であり、世界的にも評価されるもの。チャレンジ精神を歴史的背景として持つ日清食品は昨年、持ち株会社である日清食品ホールディングスを設立し、あらたなビジネスステージへと歩み出す。同時に、Webにおいてもコーポレートサイトとしての適正な情報発信とブランドサイトによるプロモーションおよび独自のキャンペーン展開など、積極的かつ果敢なチャレンジにいとまがない。

今回は日清食品ホールディングス(株)の管理本部広報部でコーポレートサイトの運用を担当されている係長の松尾知直さんと、日清食品(株)宣伝部の三宅隆介さんにお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 初期リニューアルで独自のCMSを導入

Web STRATEGY(以下、WS) 御社が最初にWebサイトを公開した時期とその取り組みは、どのようなものであったのでしょうか。

松尾氏 当社が最初にコーポレートサイトを立ち上げたのは1998年でした。当時のトップページは画像でデザインされたグラフィカルなものでした。一応、企業情報と商品情報という大きくふたつのサイトへのメニューを配置しており、いわゆる当時流行ったスプラッシュページではなかったのですが、現在のように情報性を重視したものではありませんでした。その後、しばらくは運用を通じてコンテンツの追加とマイナーバージョンアップを繰り返しましたが、大きな変革というのは2000年を過ぎるまでは行われませんでした。

WS 大々的なリニューアルというのは、いつごろで、何をきっかけに行われたのでしょうか。

松尾氏 インターネットがより身近になるにつれてユーザーの方々のリテラシーも上がると同時に、Webサイトへもデザイン性だけでなく情報性が求められるようになってきたことがリニューアルへのきっかけだったと思います。公開時からずっとトップページで企業情報と商品情報を振り分けて、言わばふたつの顔を持っていたわけですが、消費者の方々にとっては同じ日清食品という企業の情報。コーポレートサイトとしてどうあるべきかを意識し出すと同時に、Webサイトでも情報をよりフラットに提供すべきだと考えたのです。また、サイト運用の効率化というのも課題のひとつでした。そこで、2000年から企画を進め出し、ある程度、その目的を実現できたのは2008年のリニューアルでした。その後はほぼ2年ごとにリニューアルを繰り返し、現在に至っています。

WS サイト運用の効率化というと、それまでの運用には具体的にはどんな問題があったのでしょうか。

松尾氏 当社では、新製品および既存商品のリニューアルも含めて、実に年間300点ほどの商品を発売しています。したがってそのリリース情報は、平均すればほぼ毎日のようにあるわけです。実際には1日当たり十数点の商品情報を発信するといったこともあります。一方、Webサイト運用専任担当者としては少人数で行っていたという経緯もあり、更新負荷の高いサイト運用をどう効率化するかは非常に大きな課題だったんです。また、すでに99年ごろからTVCMをリソースとしてWebコンテンツに活用していたのですが、これらも含めれば膨大な量の情報をアウトプットしなければならない。それを少人数でいかにマネジメントしていくかを検討せざるを得なかったんです。

WS 効率化に対する施策としては、何を行ったのでしょうか。

松尾氏 2001年のリニューアルにおいては、CMSの導入というのが大きな施策でしたね。先ほど述べたような商品情報およびTVCMをデータベース化して、Webコンテンツに配信するというものです。ただ、当時はまだ商用CMSでは当社のニーズに対応するものとして納得する製品が見つからなかったこともあり、ほぼフルスクラッチで独自のCMSを構築しました。その後も機能的に拡張しながら、現在でもそのCMSを活用しています。

日清食品のトップページの変遷
■日清食品のトップページの変遷
1998年に最初のコーポレートサイトを公開。当初企業・商品情報に振り分けていたナビゲーションを2001年のリニューアルでフラット化している。その後はほぼ2年おきにリニューアルを行い、現在に至っている


2 マーケティングとしての
Webとリアルの連携のこれからを考える


WS リニューアルにおいては業務効率化のほかに、コンテンツ的な取り組みはなかったのでしょうか。

松尾氏 もちろん行いました。先ほど言ったようにリニューアルにおいては、情報のフラット化が課題のひとつであり、その際にはブランディングを多分に意識して企画を進めたんです。デザイン的には企業・商品の区別なく、同じインターフェイスで情報を提供することを心がけると同時に、目指すところは企業ブランディングであり、より広報的な色合いを強めていくきっかけとなったリニューアルでもあったのです。当社へのイメージとしては、やはりカップヌードルに代表される商品イメージが強い。したがって、商品に関連したコンテンツの拡充も必要と考えました。当社の歴史においては安藤百福という重要な人物がおります。世界初のインスタントラーメンである“チキンラーメン”を開発した当社の創業者であり、またカップヌードルの開発により、世界の食文化を変えたともいわれる発明家でもあります。これも含めて、食文化や麺文化への企業としての取り組みをWebサイトにアーカイブすることで、ブランディング的なアプローチを行ったわけです。

WS 現在では各種商品ごとのブランドサイトも立ち上がっていますが、これらはどういった位置づけで運営されているのでしょうか。

三宅氏 商品別ブランドサイトに関しては、現在では8サイトほどが独自のドメインで運用しています。もちろんすべての商品が個別のブランドサイトを持っているというわけではありません。あくまでも「カップヌードル」や「どん兵衛」といった定番的な主要製品および「レンジシリーズ」「リフィルシリーズ」という現代的なアプローチの商品で展開しています。また、コーポレートサイトとは別のスペシャルサイトという意味では、会員サイトとしての「NOODLE+」、通販サイトとして「カミングダイエット」、「日清e-めんショップ」があり、ほかにもモバイル向けにコーポレートおよびいくつかのブランドサイトを運用しています。ブランドサイトに関していえば、その目的はブランディングであり、同時にマス広告などを活用したキャンペーンの受け皿としての機能も有します。また、通販サイトは当然のごとく売上部門として位置づけています。

WS 各ブランドの遡及が重要な目的だということでしょうか。

三宅氏 もちろん、そうなのですが、それ以上に重要なことはダイレクト・コミュニケーションのツールであるということだと思います。Webサイトは日清食品が独自にコントロールできるメディアであり、既存のマスメディアとは異なり、消費者の方々と直接コミュニケーションをとれるメディアであるということですね。消費者に対して、直接企業メッセージを伝えることができ、同時に消費者からの声も直接受けることができる。その意味では、ことブランドサイトでは、Webならではのコンテンツ展開が重要だし、それこそがおもしろいものだと思うんです。ここ数年、「続きはWebで」というクロスメディア展開が盛んに行われていますが、実はそれが嫌いなんです(笑)。もちろん、マスを使ってWebサイトへ誘導してユーザーの囲い込みを図るという施策が有効であることもわかっていますが、WebはWebならではのコンテンツ展開がある。たとえば現在「カップヌードル」という商品は、TVCMでも「DREAM!」をキーワードにその世界観を展開しています。では、そのキーワードである「夢」をWebでどう具現化しようかと考えて「NOODLE ON NOODLE」というコンテンツを制作したんです。ユーザー参加型コンテンツとして、宇宙ステーションまでカップヌードルを積み上げるというものなんですが、これは特にコンテンツ自体をプロモーションしてはいないんです。したがって企画当初は10カ月くらいを想定して映像コンテンツの拡充などを予定していたんですが、実際に公開してみるとWeb上のバズによってほぼ1カ月くらいで積み上がってしまいました。ある意味、Web自体のパワーを知るきっかけともなりましたが、Webならではのコンテンツを提供することで、マスメディアとはまた異なる消費者からの高い反応が得られることの実証でもありました。

WS Webはマスとは異なるキャンペーン的な利用価値があるということでしょうか。

三宅氏 そうですね。キャンペーンとして考えれば、WebはTVCMを打つよりも格段に低コストで展開できるというメリットもありますが、やはりターゲティング広告としての機能性が強いととらえています。もちろん、すでにWebはマスメディアとしての特性も有しています。たとえばYahoo! Japanのトップニュースに取り上げられることがそうですね。ただし、当社のブランディングサイトがメディア的機能を有しているならば、それを活用しない手はないわけです。先ほど「続きはWebで」は嫌いだと言ったのは、それが利用価値がないからというわけではなく、依然としてクロスメディア的なキャンペーンは有効だと思うんです。ただ、方法論としてはつねに変容を考えなければいけない。4、5年前であれば希少価値ゆえに有効であった手法も、すでに希少価値は薄れている。であれば、今はWeb発信のコンテンツがマスメディアを連携させるという手法が有効ではないかと。先の「NOODLE ON NOODLE」であれば、コンテンツ公開と同時にリアルでも渋谷とかで実際にカップヌードルを積み上げたオブジェを展開するとか。

日清食品のブランドサイト群
■日清食品のブランドサイト群
現在、主要8製品に関してブランドサイトを特設。それぞれに世界観を伝える、異なるアプローチでコンテンツを展開。また、オンライン通販専用商品「カミングダイエット」も展開している


3 Webとモバイルの役割を認識し
使い分ける

WS すでにWebをより積極的に活用していこうという企業スタイルが感じられるのですが、今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

松尾氏 先ほど三宅のほうから、Webはターゲティング広告メディアとして強い特性があると申しましたが、それが今後のコーポレートサイトおよびブランドサイトのひとつの方向性として考えられると思います。従来のマスメディアを使った広告は、さまざまなポータルに入口を用意して、お客さまの来訪を待つという手法ですが、Webマーケティングは直接お客さまのところへメーカー側から行くというもの。それがターゲティング広告なわけですが、それをより効率的に果たせるのがWebの特性なわけです。コーポレートサイトでいえば、昨年の「移り香の件」などもそうですが、企業として発信しなければならない情報を適時かつ十分な情報をしっかり発信していくことが今後のWebサイトの重要な役割だと考えています。

三宅氏 お客さまのところへ企業側から行くという意味では、マーケティング的にもWebならではの施策はさまざまなな可能性があると思います。実際、当社でもすでにSNSサービスの「GREE」でコンテンツ展開を行いました。人気ゲームのひとつである「釣りスタ」の当社バージョンとして“空き缶”を釣るというゲームをスポンサードしたんです。ゲームという形を借りて、当社のエコへの取り組みを訴求するという目的があったわけですが、これに対しておよそ100万人のユニークユーザーがゲームを楽しんでいただき、そこからおよそ20万人という高い比率で当社サイトへも訪れていただきました。同様のことを既存のマスメディアを使った手法で行えば、とてつもないコストがかかるわけですが、Web、そしてモバイルという媒体を使うことで、より低コストで企業活動の遡及に実現したわけです。ただ、現実的にはWebキャンペーンが実際のマーケティングにどれだけ貢献したかがわかりにくいというのが現状ではあるんですが、それも今後は裏付けとなる数値をもった施策がとれるだろうと考えています。すでに具体的なアイデアもあり、今後のブランドサイトの展開を見ていただきたいと思います。また、すでにユーザーは自由な立ち位置で情報を得るという現状においては、モバイルへの取り組みも重要ですね。当社の主力製品の特性としては、やはりリアル店舗での遡及が重要。ユーザーがそこにいながらにして情報をプッシュできるメディアとしては、モバイルは重要です。

日清食品のモバイルサイト








■日清食品のモバイルサイト
日清食品のモバイル向けコーポレートサイト。カップヌードル、どん兵衛といった主力製品のブランドサイトも展開。ユーザーとの重要なタッチポイントとして、モバイルサイトも重視している

釣りスタ! ECOプロジェクト







■釣りスタ! ECOプロジェクト
GREEモ内の人気コンテンツ「釣りスタ!」とカップヌードルタイアップ企画「ECOプロジェクト」。通常魚を釣るゲームを、空き缶を釣るというECOを意識したゲームにアレンジ。若者に無理なくECOを訴求した


松尾氏 企業ブランディングという意味では、Webは今後も非常にロイヤリティの高いコミュニケーションメディアだととらえています。お客さまのライフタイムの中のさまざまなシーンにおいてフックとなるコンテンツを投入していくことで、日清食品ファンの母数を拡大すると同時に、さまざまなセグメントに対して、お客さまと密なコミュニケーションが可能なメディアです。したがって、コーポレートサイトの役割としては、今後は単に企業情報を発信するだけでなく、ブランドサイトとの連携において必要となる情報発信を補完的に行うことも重要だととらえています。ブランドサイトは全商品で展開できるわけではなく、認知度の高い商品に限って展開している。では、それ以外の商品や情報をどこで伝えるかは、コーポレートサイトの役割ではないかと。つまり、自社ブランドとしての商品格差をなくし、消費者に対してフラットに、かつパーマネントに情報を提供していくという役割が重要だと考えています。あくまでも“即席めんメーカー”としての立ち位置で、自社商品およびメーカーとして社会に貢献するための情報発信力をより引き上げていくことが、今後継続的に行うべき施策だと考えています。

NOODLE ON NOODLE
■NOODLE ON NOODLE
カップヌードルのWebキャンペーンとして展開された「NOODLE ON NOODLE」。カップヌードルのパッケージを宇宙ステーションを目指して積み上げていくというユーザー参加型イベント。すでに第2弾も公開予定である


本記事は『Web STRATEGY』2009年3-4 vol.20からの転載です
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