第19回 バンダイ
株式会社バンダイ
社長室 広報チーム リーダー
大塚賢一郎 氏(右)
サブリーダー
馬渕舞 氏(左)
エンターテインメント企業の顔として
「楽しさ」を伝えるバンダイのWebサイト
1950年に東京・浅草で創業された(株)バンダイ(創業当時(株)萬代屋)は、日本を代表する玩具メーカー。1960年代からはテレビアニメの急速な普及に伴い、キャラクタービジネスに進出。その後、ガンダムなど数多くのキャラクター商品を展開すると同時に、たまごっちなどの時代のニーズを的確にとらえた商品開発でマーケットの先導的企業として活動。また、バンダイビジュアルなどエンターテインメント系グループ企業の設立による多角経営や、2005年の(株)ナムコとの経営統合により、総合アミューズメント企業としてさらに飛躍を続ける。
今回は、(株)バンダイのコーポレートサイトの運用を担当されている社長室広報チームの大塚賢一郎さん、馬渕舞さんに、Webサイトの役割と今後の展開についてお話をうかがった。
文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬
1 企業メディアとしての確立と
事業会社としてのブランディング施策
Web STRATEGY(以下、WS) 現在、バンダイナムコグループ企業として事業展開するバンダイにおけるコーポレートサイトの役割からお聞かせください。
大塚氏 2000年あたりまでは、当社のコーポレートサイトもほかの企業サイトと同様に一般的な企業情報を発信する程度にとらえていたのですが、2000年を過ぎたあたりから、企業独自のメディアとしての側面が評価されるようになり、よりバンダイ色を訴求するようなWebサイトの活用法を模索し始めたといえます。コーポレートサイトのリニューアルはほぼ2年おきに行っていますが、2003年のリニューアルに際してはそれ以前のサイトをより詳細に分析し、閲覧していただいているユーザー層の把握から、問題点の洗い出しまで徹底的に行いました。その結果、商品情報が検索しにくい、顧客サポートが弱いといった問題点を把握し、それらを改善するという方向でリニューアルを実施しました【1】。
【1】バンダイのトップページの変遷
ほぼ2年おきにリニューアルを行っているバンダイのコーポレートサイト。2005年に自社メディアとして構築したコーポレートサイトは、2007年にお客さま向け情報と企業・マスコミ向け情報を明確に区別した情報検索を前面に押し出すリニューアルを実施。さらに2008年にはキャラクター・ナビゲート・システムを導入し、ブランディングと同時に「おもてなし」を表現
WS 問題点の解決策としては、どのような改良を行ったのでしょうか。
大塚氏 トップページを全面的にリニューアルしたのはもちろんですが、まずはサイト内検索機能を実装するといったことに始まり、商品情報もキャラクター、種類という2軸での検索が行えるようにしました。ご存じのように当社の主力事業はキャラクター・マーチャンダイジングと呼ばれるものです。2003年当時でもおよそ3,000点ほどの商品アイテムがあり、それぞれ商品・キャラクターなどのブランドとして確立していたのです。当社のサイトを訪れるユーザーは、こういったキャラクターごとに情報を検索したいというニーズが非常に高いこともあり、それにお応えする形でサービスを強化したわけです。また、CS部とも連携してお客さまサポート機能も強化し、トップページからの導線もわかりやすく配置。ナビゲーションの改良により、より使いやすいサイトデザインを実現しました。
WS 2003年のリニューアルは、ユーザビリティ的な改良をメインに行ったということですね。
大塚氏 そればかりではありません。先にも述べたように、Webサイトが持つ企業メディアとしての特性も生かすことを模索していましたので、たとえばイベントやキャンペーン情報を発信するコーナーを新設するなどして、企業全体のブランディングをより強化するような施策も行っています。当時、Web業界でも重視されつつあったユーザビリティ、アクセシビリティへの対応、そして企業独自メディアとしての活用までトータルに考えて実施したリニューアルであり、ある意味、コーポレートサイトがバンダイ発信のメディアとして確立したリニューアルであったともいえます。
WS 2年おきにリニューアルを実施されているということで、2005年にもリニューアルされているのですね。
大塚氏 2005年には(株)ナムコとの経営統合が行われ、(株)バンダイナムコホールディングスという持ち株会社が設立され、当社はキャラクター・マーチャンダイジングをベースとして「トイ(玩具)」、「プラモデル・ホビー」、「アパレル」、「ライフ(生活用品)」などの事業を展開する事業会社となりました。そこで、Webサイトも事業会社として企業ブランディングに注力したリニューアルを実施したのです。具体的には、エンターテインメントを提供する企業として「元気よさ」「楽しさ」を前面に押し出し、同時にコンテンツを楽しんでいただくお客さまにとっての「使いやすさ」「わかりやすさ」を最重要視することを基本コンセプトとして、2003年のリニューアルで実装した機能の強化などを行っています。たとえば、商品情報の検索機能は複合検索を可能にすることで、より精度よく情報が探せるようにし、またニーズの高いリンクボタンデザインをより視認性の高いものへと改良を行っていきました。
馬渕氏 サイト全体のデザインも、以前は企業サイトとしてクリーンなイメージとしてどちらかといえば静的なイメージでしたが、事業会社化したのちは、よりエンターテインメント性を重視してグラフィカルで「楽しさ」が伝わるようなイメージへと一新したのです。同時に企業情報やプレスリリースなどへの導線は、明確にデザインを区別し、お客さま向け情報と企業・マスコミ向け情報への導線の違いがはっきりとわかるようなデザインを実現しました。さらに、ユーザーニーズが非常に高いキャラクター情報をフィーチャーし、「キャラクターインデックス」コーナーを新設したのもこのリニューアルにおいてです。キャラクターに関しては、それ以前から個別の公式サイト(ブランドサイト)も数多く立ち上がっており、それらへのナビゲートも含めてコーポレートサイトとしてユーザーをわかりやすく案内するという部分に注力したといえます。
2 エンターテインメント企業としての
「おもてなし」をサイトで表現する
WS 2007年のリニューアルで現在のコーポレートサイトとなっています。現状のサイトは以前のものとかなり大きく変わっていますが、リニューアルはどんなコンセプトで行われたのでしょう。
大塚氏 まずはブロードバンド登場以降、急激に進化しているインターネットの閲覧環境を積極的に活用していこうというのが、コンセプトでした。ユーザー環境に合わせて画面サイズを広くしたこともそのひとつですが、Flashコンテンツや映像などを提供して、エンターテインメント企業サイトとしてより「楽しさ」を押し出していこうというものです。
馬渕氏 現在、インターネットで情報を探す場合、検索エンジンを使ってテキストベースでシンプルに検索するというのが一般的ですね。でも、エンターテインメント企業のサイトとして情報をより楽しくナビゲートしてもよいのではないかと考えたのです。そして採用したのが「キャラクター・ナビゲート・システム」で、現在はたまごっちのキャラクター「まめっち」によって、Webサイト内のコンテンツ検索をお手伝いするという機能です。以前のリニューアルでも「楽しさ」「わかりやすさ」を追求し、情報検索機能の強化を行ってきましたが【2】、今回はそれに「おもてなし」の演出と機能を加えていったのです。
【2】さまざまな検索軸を用意
商品情報を探すというニーズに全方位的に対応するため、さまざまな検索軸を用意しているのもバンダイのサイトの特徴。実際の検索機能も複合検索を可能にするなど、利便性をつねに追求している
大塚氏 エンターテインメント企業として、「おもてなし」の気持ちを表現することは非常に重要なブランディング要素だと認識しています。コーポレートサイトの役割としては、企業として「おもてなし」というスタンスを表現すると同時に、さらに関連するサイトへユーザーをスムーズに誘導するという役割も持っています。現在ではキャラクターをフィーチャーしたブランドサイトが50サイトと、ほかの企業と比較してかなり多数のサイトで構成されているわけです。これらのサイトの中からユーザーが訪問したいサイトへわかりやすく、しかも楽しみながらご案内するというのが2007年のリニューアルでは大きな目的だったのです。
WS 現在、コーポレートサイトに直接アクセスすると、たまごっちのアニメーションが表示されてからトップページが表示されるという、以前のスプラッシュムービーといった演出もあえて採用されているのでしょうか。
馬渕氏 そうです。サイト全体でキャラクター・マーチャンダイジングを主要事業とするバンダイを表現しているのです。まずはトップページでのキャラクターの代表としてたまごっちキャラがお出迎えをする。そして、その流れのままトップページへと誘導し、キャラクター・ナビゲート・システムによって「まめっち」がサイトをご案内するというストーリーを展開しています。
大塚氏 事業会社が運用するWebサイトは、ある意味万人向けのメディアではなく、バンダイファンに向けてのメディアという側面を重視しているというのが、現在の考え方です。ユーザーが知りたい情報をバンダイならではの手法で紹介する。もちろん各キャラクターファンのユーザーは、各ブランドサイトへ直接訪れる場合も多いでしょう。ただ、そういった個別のブランドサイトから、または検索エンジンなどからコーポレートサイトへ訪れたユーザーに対して、テキスト情報をメインとして単に企業情報をストイックに提供するのではなく、あくまでもバンダイの玄関として、そこでもキャラクターがお出迎えするわけです。
WS バンダイという企業全体の表玄関としての役割を持つということですが、ほかにはどういったコンテンツ施策が図られているのでしょう。
大塚氏 たとえば現在の「バンダイワールド」【3】では「買う」というコーナー【4】で通販情報を提供していますが、これはもともとは各ブランドサイトでバラバラに始めていた通販事業をひとつのチャネルとしてまとめたものです。同じバンダイ商品の通販として複数のサイトが立ち上がっており、通販事業自体は各事業部で行っているわけですが、ユーザーに対してその玄関となるコンテンツを提供するのがコーポレートサイトの役割ですね。これは、この4月にさらに「プレミアムバンダイ」というECサイトとしてより利便性の高いコンテンツとして提供させていただく予定です。また、Web上で商品の取扱説明を始めた関連サイトもあります。玩具の遊び方など、印刷物による静止画の説明よりも、簡単なアニメーションを利用したWebコンテンツのほうがわかりやすく見せられることも多く、また取扱説明書自体、ユーザーの方が処分してしまうといったことも多いため、ユーザーサポートの一貫として実験的にご提供しています。
【3】バンダイワールド
2008年にはキャラクター・ナビゲート・システムと合わせて、エンターテインメント性の高いインターフェイスとしてバンダイワールドが登場。既存のコーポレートサイトの横幅をはみ出すという斬新なインターフェイスは、ユーザーに楽しんでもらいたいという企業姿勢をストレートに表す
【4】ショッピングチャネル
バンダイナムコグループ各社が提供する通販サイトを一元的に紹介するコーナー。各サイトでばらばらに運用されているサービスへの導線を1ページで紹介することで、ユーザーへの利便性提供と同時にネット上でのコンバージョンへとつなげる施策
3 ユーザーの生の声を
リニューアルに反映させる
WS コーポレートサイトの制作および運用体制はどのようになっているのでしょうか。
大塚氏 企画および運用は、基本的にすべて広報チームで行っています。また、制作に関しては、バンダイナムコグループでネットワークコンテンツ事業などを行っているバンダイナムコゲームス(旧バンダイネットワークス)が行っています。バンダイナムコゲームスは、単に制作を担うというだけでなく、企画時点から参画していただき、運用面での協力も得ています。グループ内の企業をパートナーとして制作・運用を行っているのは、企業理念などの共通認識が深いこともあり、文化的土壌を共有しているため、プロジェクトの進行がスムーズに進むというメリットがあるからです。キャラクタービジネスにおいては、著作権絡みなどで注意しなければならないさまざまなポイントがあるのですが、外部パートナーではそういった部分で不要な問題が発生する可能性もあり、より確実な情報提供を行うためにも、現在の体制が必要だと考えています。
WS 多数のブランドサイトの制作に関しても広報チームが統括的な役割を担っているのでしょうか。
大塚氏 もちろん基本的なレギュレーションは決めていますが、サイト運用およびコンテンツの内容に関しては各事業部ごとのWebオーナーに任せています。キャラクターサイトなどは、それぞれの個性を生かしたサイト運用が必要ですし、それぞれの自主性を重んじるというのが社風でもあるのです。
WS リニューアルは、どのくらいの期間をかけて行っているのでしょうか。
大塚氏 およそ半年ほどの時間をかけていますね。現状サイトの分析に始まり、アンケート【5】やユーザーテストの実施などを経て情報を収集し、改善点を洗い出すといった作業から、次の施策を企画化していきます。
【5】バンダイこどもアンケート
バンダイが長年にわたって社会貢献的な活動として行ってきた「バンダイこどもアンケート」もコーポレートサイト上で展開。親から見る子どもの姿や親子の相関など、世相を知るうえでも貴重な意見調査とその結果報告を積極的に展開している
WS ユーザーテストは具体的にどんなことを行っているのでしょうか。
馬渕氏 実際にお子さまや親御さまに参加していただき、当社のWebサイトをいろいろと触っていただく様子をモニタリングしていました。アイトラッキングのようなシステムは導入していませんが、実際にWebサイトをどのように閲覧しているのかを目の当たりに見ることで、さまざまな情報を知ることができますね。サイトの使い勝手などのユーザビリティだけでなく、仕掛けやコンテンツの内容がユーザーにとって楽しいものなのかどうかも具体的な反応として得ることができます。非常に貴重な情報だと思います。ユーザーテスト自体は、もともと当社の玩具商品開発で実施している方法です。それをコーポレートサイトにも応用してみました。
WS 先のリニューアルから今年で2年目となりますが、新たなリニューアルは予定されているのでしょうか。
大塚氏 はい。今年の秋にはリニューアルを予定しています。現段階では、どんな内容になるかは公表できませんが、エンターテインメント性も含めて楽しみにしていただければと思います。また、リニューアル以前にも、さまざまなコンテンツ拡充を計画しています。当社は国内だけでなくワールドワイドに事業を展開していることもあり、商品情報の英訳を含む海外向けコンテンツの提供に注力していく予定です。
バンダイのケータイサイト
携帯端末に対しては今後重要なツールとしながらも、特別に比重を重くするのではなく、PC同様に端末特性を考慮したうえでの情報提供を考えているという
本記事は『Web STRATEGY』2009年5-6 vol.21からの転載です