リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第11回 キリンビール | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第11回 キリンビール

2024.4.19 FRI

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第11回 キリンビール


キリンホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション部 広報担当 主査
岡本勇治 氏 (左)

キリンビール株式会社
広報部 広報担当 主査
松枝 敦 氏 (右)



グループ全体での価値創造のための
ひとつの機能としてWebをとらえるKIRIN


1888年に発売された麒麟ビール(当時はジャパン・ブルワリーが製造し、明治屋が販売)。現在では、キリンラガーとして販売されているこのビールは、日本人に長く愛されてきた。かつてビール業界でシェアNo.1を誇ってきたキリンは、新たなドライビールの登場でその座を他社に譲ることになるが、その後新商品を次々に投入。現在ではシェアNo.1を小差で争い合う状況にいたる。

激変する熾烈なビール戦争と同様、キリンビールもそのグループ各社を含め、企業構造を時代の変遷とともにさまざまに変化させてきた。そして、今年2007年7月、大幅なグループ改編が行われ、キリンビールは純粋持ち株会社である「キリンホールディングス」に社名変更。主力商品であるビールをはじめとした酒類商品の製造・販売事業は事業子会社である新生キリンビールへと移管。

今回は、キリンビールの企業変遷とともに、グループ再編を受けて実現した大幅リニューアルについて、キリンホールディングス コーポレートコミュニケーション部 主査である岡本勇治氏と、キリンビール 広報部 主査である松枝敦氏、そして、大幅リニューアルに企画段階から中心的に携わった制作会社、博報堂アイ・スタジオから、第一事業部 プロデューサーの山田和利氏、谷ヶ崎 綾乃氏にも同席していただき、お話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 初期キリンビールWebサイトの変遷

Web STRATEGY(以下、WS) この7月に、大幅なグループ再編を受けてリニューアルを果たしたWebサイトですが、まずはその歴史からお聞かせください

キリングループのサイト
■キリングループのサイト
今回のプロジェクトによって、ホールディングスのサイトを中心に、キリンビールなどグループ各社のサイトは、それぞれ基本的なデザインを統一している


岡本氏 当社がWebサイトを開設したのは、1994年末のことでした。インターネットユーザーの増加に伴って、さまざまな企業がWebサイトを公開する中、当社でもインターネットを新たなITツールという認識で、そのビジネス的活用を探る意味でWebサイトを開設しました。経営的な判断としては、新しいツールの登場に対して、まずは積極的な活用ではなく、やらないことへのリスク対応として取り組みを始めたといえると思います。また、2000年7月に、特別プロジェクトとして「eビジネス推進室」が設置され、ITビジネスのあり方を手探り状態で模索していました。

WS プロジェクトでの運用はどの程度の期間で行われたのでしょうか

岡本氏 eビジネス推進室の活動は3年半ほど続きました。インターネットが進化するスピードが予想以上に速かったこともあり、次第に広告媒体としての価値が重視されるようになったため、キリンビール酒販営業本部の営業開発部にてWebサイト運用が開始されたのです。ちょうど2004年ごろのことです。インターネットユーザーも格段に増加し、必要な情報を入手する手段として認知されるようになっていました。したがって、企業としてインターネットを使った情報発信を広告的にとらえる傾向が強かったと思います。また、従来の広告費と比較すれば、Webサイトの運用コストは極小ともいえるほど低いもので、マス広告で訴求した情報の詳細をWebサイトで補うといった考え方で運用が行われていたのです。ただし、その後もインターネットの進化は速度を緩めることなく、それに伴ってWebサイトに対してもインタラクティブ性を含めた機能性をユーザーがより強く求めるようになってきました。

WS 単なる情報発信媒体ではなく、ユーザーとのコミュニケーションを意識したコンテンツ提供が要求されるようになったわけですね

岡本氏 コミュニケーションを含めて、当社のWebサイトに対するお客さまのニーズに対応するということは、より事業に近いITを活用することではないだろうかと考えたわけです。であれば、Webサイトの運用自体が広報部門の管理下に置くのではなく、より事業に近い部門に置くべきではないだろうかと。そこで、よりビジネス的な活用については、現在も営業開発部が管轄しています。

キリングループの構造(概要)
■キリングループの構造(概要)
キリングループは、純粋持ち株会社である「キリンホールディングスをはじめとして、国内酒類事業を担うキリンビール、清涼飲料事業を担うキリンビバレッジ、医薬事業を担うキリンファーマといった事業子会社、グループ内企業の情報システム構築などを担うキリンビジネスシステムといった機能分担会社で構成される。(一部、省略)


2 双方向コミュニケーションとブランディング

WS その後、Webのビジネス活用にはどのような変化があったのでしょう

松枝氏 私は以前は清涼飲料の製造・販売を手がけるキリンビバレッジに所属していたのですが、キリンビバレッジではまた違ったWebサイトのとらえ方をしました。どちらかといえば、キリンビバレッジの事業としては商品・サービスを通じてお客さまとコミュニケーションを図るという考え方があります。したがって、Webサイトの役割としてはキリンビバレッジのブランディングという骨があり、商品情報や環境への取り組み、IRといった具体的情報を肉付けしているという考え方です。

岡本氏 ブランディングに関しては、キリンビールでも1990年代後半から議論され始め、商品プロモーション的な活用方法を見直し、ブランド価値を高めるためにはどうすればいいかを真剣に議論してきたんです。もともとこのブランディングに関する議論はトップダウンで始まったもので、それがやがて「キリン・グループ・ビジョン2015」(以下、KV2015)にも反映されています。要するにキリンブランドの価値向上をどう行うかという議論がなされ、長期経営計画においてWebサイトをどう活用するかといった議論へと発展したわけです。

松枝氏 お客さまとのコミュニケーションについては、インターネット以前からキャンペーンやお客様相談室といった形で行われていたものです。ただ、たとえばお客様相談室でいえば、以前は電話が主体であったものが、インターネットの登場によって次第にeメールによるコミュニケーションが増えていった。しかも、インターネットは非常に即時性が強い。つまり、お客さまの声にすぐに応えることができ、お客さまに当社をより身近に感じていただくことができる。また、キャンペーンだけでは1回きりのコミュニケーションとなりがちですが、インターネットを連動することで継続的なコミュニケーションが可能となる。こういったインターネットというツールによって生み出された新たなコミュニケーション手段は、キリンというブランドを好きになっていただく、つまりブランディングに活用できると考えるようになったのです。


取材協力:写真一番右 山田和利氏((株)博報堂アイ・スタジオ 第一事業部 プロデューサー)、写真右から2番目 谷ヶ崎 綾乃 氏(同 第一事業部 プロデューサー)


3 グループ全体の横断的リニューアルを実現

WS 話を今回のグループ再編に伴う大々的なリニューアル作業に絞っていきたいと思います。まずはリニューアル案件の開始時点からおうかがいできますか

岡本氏 今回のリニューアルは、2005年に策定した長期経営計画である「KV2015」に端を発します。KV2015は飛躍的な成長を目指し、グループ全体を再編することで新たな企業グループとして新生することを掲げたもので、その中では、それまで各事業会社や部門ごとに行っていたブランディングを、グループ全体の課題ととらえ、キリンブランド価値の向上を目指していました。そこで、2006年6月に「Webサイト改編プロジェクト」を立ち上げ、リニューアルプロジェクトを発足させると同時に、KV2015で掲げる理念のもとに一緒にプロジェクトを進行してくれるパートナー選びを開始したのです。

谷ヶ崎氏 コンペに参加させていただいたのが2006年7月半ばのことです。もちろんその間、キリン様のほうではWebサイトだけでなく、グループ全体の再編という課題に取り組んでいらっしゃったわけで、各事業会社との綿密な情報交換の中で合意形成を図っているところでした。そこで、当社としても、リニューアル後のWebサイトがどうなるかといったものではなく、Webサイトリニューアルを「合意形成型」という形で進めていってはいかがでしょうかという、どちらかといえばプロジェクトマネジメント的な提案をさせていただいたんです。

岡本氏 キリンが目指すことに共感を感じてくれて、一緒に新生キリンを考え、実行してくれると理解できたことがパートナー選びのポイントでしたね。そこでパートナー様を選定した直後に、まずはプロジェクトチームを発足させ、キックオフミーティングを行ったのです。キックオフを通じて、一緒にやろうという意思統一を図り、理念への共感を深めてもらいたかったんです。

WS その後、約1年をかけてグループ横断的なリニューアル作業が進められたわけですが、具体的にはどのように進められたのでしょうか

谷ヶ崎氏 まずはプロジェクトチームを発足していただき、キックオフから始まりました。それから、およそ3カ月かけてキリングループにとってWebをどう位置づけるかといった議論を重ね、11~12月にかけて具体的な企画案に落とし込んでいったんです。同時に運営組織体ごとにキックオフを行い、全体的な意思統一も図りました。

キリングループのWebサイトのリニューアルスケジュール
■キリングループのWebサイトのリニューアルスケジュール
膨大なコンテンツ量を誇るキリングループのWebサイトリニューアルは、綿密な作業スケジュール管理とガイドラインの策定により、70社体制で行われる作業管理を効率化し、高い品質で実現することに成功した


WS キリンビールだけで考えても、膨大なコンテンツ量があると思います

谷ヶ崎氏 そうですね。およそ150コンテンツで、ページ数にすると2万ページ強ありました。ですから、まずはグループ再編計画に並行して、コンテンツの分類・整理という作業を進めることから始めました。

岡本氏 作業としては、まずはキリングループ全体のブランディング戦略という機軸でリニューアルの基本方針を固め、それを各コンテンツの主管や制作会社に周知するところから始めました。リニューアルとしては、グループ全体としてのトーン&マナーの統一など表面的な作業も当然必要ですが、それがメインの目的というわけではなく、グループ全体でWebサイトをどう活用するかといった意思統一が重要だと考えていました。

松枝氏 お客さまにとっては、キリンビールもキリンビバレッジも同じキリンというブランドなんです。それゆえに各事業会社ごとにブランディングを行うのではなく、グループ全体でのWebサイトととらえたブランディング活動が必要なわけです。それによって、お客さまにキリンの意思や姿勢を感じていただくことができる。

WS リニューアルを進めるにあたって、具体的にはどんな作業が発生したのでしょうか

谷ヶ崎氏 すでにグループ再編の開始期日が2007年7月と決まっていました。つまり、リニューアルサイトをラウンチする期日も決まっていたわけで、まずはそれに向けたスケジュールを作成しました。次に、2007年1月から2月にかけて、コンテンツ制作・改修のためのガイドラインを制作しました。既存コンテンツを再編成するといった作業も多かったため、まずはガイドラインをしっかりと固め、それを周知する必要があったのです。

山田氏 ガイドラインを制作したのち、3月には関連する制作会社様70社に対して、2日間に分けてキリン様が説明会を開催しました。そこでガイドラインの説明を行いました。内容としては、トーン&マナー統一のためのコーディングルールやSSI記述といったことから、ユーザビリティやアクセシビリティなどの考え方、対応策といったことまで事細かに解説するものでした。

WS 70社もの制作会社が入っているとすれば、品質レベルの違いなどもあったのではないでしょうか

山田氏 そうですね。ただ、そのあたりはガイドラインによって標準化を図ったわけで基本的にはそれに沿って進めてもらいました。当然ドキュメントだけでは理解できない部分もあり、リニューアル作業過程で個別に対応することも多くありましたね。

WS サイトデータの納品などはどのように管理されたのですか

谷ヶ崎氏 既存サイトの通常更新が行われる中で行う、既存コンテンツを含めたリニューアル作業ということで、リニューアル専用の事務局を弊社内に立ち上げて、納品管理を行いました。70社の作業リストを一覧表として作成し、進行管理2名、チェック担当3名というスタッフ体制で、全コンテンツを一元的に検証していったんです。スケジュール管理も含めて複雑な作業となるため、毎週のように打ち合わせを行っていましたね。

WS リニューアル後のWebサイトの評価はどうなのでしょうか

岡本氏 第三者による評価では、使いやすくなったといった評価もいただいておりますが、ユーザーによるより具体的な評価はもっと調査する必要があると考えています。7月のリニューアル以降、現在はモニタリング期間ととらえ、検証作業を進めているといえます。今回のリニューアルが、キリングループのWebサイトとしての最終形態だとはまったく考えていません。長期的視野に立ち、今後もグループ全体の変化に対応して、Webサイトも変化していくものだと考えています。


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2007年11-12 vol.12からの転載です
twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在