第14回 トンボ鉛筆
株式会社トンボ鉛筆
商品情報部 企画情報グループ
マネージャ
薗部 聡 氏 (左)
株式会社トンボ鉛筆
商品情報部 企画情報グループ
和多由香 氏 (右)
企業の姿を誠実に伝えるメディアとして
Webを活用するトンボ鉛筆
創業は大正2年(1913年)というトンボ鉛筆。間もなく創業100年を迎えるという、文具メーカーの老舗である。鉛筆という日常生活に密着した道具を世の中に送り続ける企業として、だれもが幼いころから慣れ親しんでいるのではないだろうか。学生時代から社会人へと時を経ても、つねに身近に存在する道具としての鉛筆は、トンボ鉛筆という企業に庶民的なイメージを抱かせる。しかし、その一方で、トンボ鉛筆の秀逸なプロダクトデザインは世界的な評価も高く、単に文具を生産するのではなく、生活をデザインするという側面も持つ。
そんな“トンボらしさ”の浸透を目指して2006年から開始された新たなブランド戦略においては、Webを積極的に活用してきたトンボ鉛筆。今回は商品情報部企画情報グループのマネージャである薗部聡さんと和多由香さんにお話をうかがった。
文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬
1 企業の基幹メディアとして
Webをじっくりと成長させる
Web STRATEGY(以下、WS) 間もなく創業100周年を迎えるというトンボ鉛筆ですが、まずはWebへの最初の取り組みからおうかがいできますか。
薗部氏 当社が最初のWebサイトを公開したのは、1996年のことです。すでにインターネットが国内でも大きく普及し始めており、この新しいITツールを企業としても活用する必要性を感じた社内有志が集まってプロジェクトをスタートさせました。総合事務機器ではなく文具メーカーに限れば、取り組みは早かったと思います。もちろん、最初はいろいろな企業が始めているから、そろそろ当社でも…というきっかけではありましたが、プロジェクトスタッフとしては「インターネットという新しいメディアにしっかりと食らいついておこう」と考えていました。
■トンボ鉛筆のコーポレートトップページの変遷
当初企業情報発信メディアとして公開されたコーポレートサイト。本年のリニューアルでは、媒体広告とのイメージ連動などにより、企業ブランド訴求のための一翼を担うものとなっている
WS 当初からWebのメディア的な側面に注目していたということでしょうか。
薗部氏 そうですね。もちろん当時はまだ安定したEコマースが立ち上がっているとはいえない状況だったこともありますが、当社の商品はインターネットで直接購入するというより、やはり文具店やデパートの文具コーナーで直接商品を手に取って確かめてからお買い求めいただく形が主流です。したがって、Webで売り上げを目指すという方向では考えにくかったわけです。むしろ、Webが持つ情報伝達スピードなどに注目していたんです。いわゆるマーケティング的な情報戦略ツールのひとつとして見ていたわけです。
WS Web以前と以後では、情報戦略として何が大きく変わったのでしょうか。
薗部氏 当初は企業情報や商品リリースなど広報的な役割が基本でしたが、同時に営業部の販売促進活動としてキャンペーン情報の掲載にも力を入れました。実際、キャンペーンの告知活動に対する反応は飛躍的に伸びましたね。もともと文具品の流通というのは「メーカー」→「問屋」→「小売店」→「消費者」という一連の流れがあり、当然キャンペーン告知に伴うリリース情報やツールもその物流に乗っていたわけで、時間と手間がかかっていた。小売店に行き渡るまでに結構な時間を要していたんです。ところがWebを使えば、この時間が限りなく短縮できる。問屋さん、小売店さんだけでなく、一般消費者様にもリリース情報を同じ品質で同時に伝えることができる。また、金融機関なども含めた、いわゆるステークホルダーに対して、リアルタイムに情報が伝達できるということで、これは流通に対する強い刺激にもなるんです。
WS そうすると初期のWebへの取り組みは、メディアとしての機能性を充実させることに
主眼を置いてきたというわけですね。
薗部氏 そのとおりですね。1996年の開設から2004年にかけては、当社が自らコントロールできるメディアとしてじっくりと成長させていたといえます。結果的に、現在ではコーポレートサイトは当社の基幹メディアとして機能しているんです。
■コーポレートサイトの構造
トンボ鉛筆のコーポレートサイトは、4つのグロナビで構成される非常にシンプルな構造。商品検索機能も含めて、情報検索にも優れている
2 商品情報の発信から一歩進めた、
新たなコンテンツ投入期
WS 2004年(平成16年)には大きなリニューアルを迎えたようですが、その内容はどんなものだったのでしょうか。
薗部氏 それまでの8年間で販売促進を目的としたリリース情報の配信以外にも、鉛筆の歴史や工場見学といったコンテンツも増やしていきました。特に工場見学などは、実際に足を運べない遠隔地からのニーズに応えるコンテンツとして掲載したもので、リアルとはいえませんが、社会学習にも役立つものと考えています。そういったお客様ニーズにお応えするサイト運営をしていく中で、特にニーズが高まっている点を強化したんです。
WS 具体的にはどういった点なのでしょうか。
薗部氏 まずは商品検索ですね。商品情報部では印刷版の製品総合カタログもつくっており、リニューアルの前年に、総合カタログ用に商品データベースを整備したのですが、その際“ワンソース・マルチユース”を意識していたんです。そして、その商品データベースをWebサイトからも検索できるようにしたことが大きなポイントでした。小売店さんは商品情報が必要ですが、従来であればそれを問屋さんに頼っていた。しかし、メーカーサイトで商品データベースを自由に検索できれば、必要なときに最新情報を入手できる。そういったBtoB的なニーズに応えるものでした。
■複数の切り口で用意された商品検索
2004年のリニューアルで公開された商品データベース(上)と2007年に公開された電子カタログ(下)。商品データベースによるピンポイント検索だけでなく、商品、エコなど複数用意した電子カタログにより、通販カタログのように横断的に商品を閲覧できることで、気づきを起こさせるサービス
WS BtoB以外にはどのような施策をとられたのでしょう。
薗部氏 もちろん、消費者様向けにもコンテンツの充実を図りました。お客様相談室に多くの問い合わせがよせられた背景から、Webサイト上でもFAQ(よくある質問)をベースとしたお客様相談室を開設しました。また、インターネットがお子様の学習環境になってきたという状況もあり、先にも述べた工場見学なども含めて、お子様が参加できる「発見文具パーク」といったサイトも開設したんです。
WS トンボ鉛筆の新しい姿を見せてくれた「DESIGN COLLECTIONS」も確かそのころ公開されましたね。
■商品をベースとしたスペシャルサイト
トンボのブランドイメージを構築する重要な商品にはスペシャルサイトを用意。高品位なデザイン性を訴求する「DESIGN COLLECTIONS」(2003年)やファンユーザーがメッセージ投稿で参加できる「Play Color(プレイカラー)with Impression」(2006年)、流行色をベースとした色の世界を学べる「IROJITEN」(2006年)などがある
和多氏 そうですね。「DESIGN COLLECTIONS」を公開したのは、リニューアル前年の2003年ですね。もともと欧州などで発売していたデザイン性の高い中高級筆記具を「TOMBOW Design Collection」というシリーズで2003年12月に発売しました。それに合わせてスペシャルサイトを立ち上げたんです。
WS 「DESIGN COLLECTIONS」は、それまでの庶民的なイメージとは違う、新たなイメージを生み出しましたね。
薗部氏 国内ではトンボ鉛筆に対して身近で庶民的なイメージを持っていただいていると思います。もちろん、それはいいことなんですが、文具メーカーとしてプロダクトデザインにこだわりを持っているという面も皆さんに知っていただきたいと考えたのです。欧州ではトンボ鉛筆のプロダクトデザインには高い評価をいただいており、デザイン文具としての「TOMBOW Design Collection」の世界観を伝えるためには、やはりFlashコンテンツが適切でした。実際、これにはさまざまなメディアが反応してくれましたし、消費者様からも好評を得ました。この「DESIGN COLLECTIONS」も含めて、2004年のリニューアルは、販促的な情報発信から一歩進めて、小売店さんや消費者様の期待に応えるようなコンテンツの充実を図ったといえます。
WS 2004年のリニューアルを機に、続々とコンテンツを投入していますね。
和多氏 BtoB機能の強化として商品情報ページで「商品スペック情報」と「商品画像」をダウンロードできるようにしました。スペック情報はCSVやエクセル形式を選択でき、画像はJPEGですね。これは小売店様などがWebサイト上から直接情報を入手できることで、小売店さん側での販促活動に役立ててもらおうというものです。
WS 店頭購入がメインという商品群のメーカーとして、流通を支援する機能をWebで提供することが重要なのですね。
和多氏 そうですね。商品カタログやリーフレットは、商品情報への小売店さん・お客様ニーズに応えるものです。そこで、2007年にはそれまで印刷物のみで提供していた商品カタログやリーフレットをWeb上で閲覧・ダウンロードできる電子カタログとして掲載を開始しました。現在では、2004年に公開した商品データベースとこの電子カタログ、重点商品のピックアップなど、Web上でさまざまな切り口で商品が検索できるようになりました。特に電子カタログは、総合カタログのほか、エコロジー製品カタログやデザインコレクションカタログも掲載し、複数の導線を通じて商品に出会える“気づき”機能を充実させているんです。また、この電子カタログはもちろん利便性を提供するものではあるのですが、もう一方でエディトリアル表現によって当社のデザイン性などをアピールするというブランディング施策のひとつとして考えています。いわゆる“トンボ鉛筆のファンづくり”を目指しているんです。
3 新たなブランド戦略に基づく
Webサイトリニューアル
WS オンライン電子カタログがBtoB強化と同時にブランディングという役目を担っていたということですが、そのほかにもブランディング戦略の一環としてのさまざまなスペシャルコンテンツが公開されていますね。
和多氏 2006年にいくつかのスペシャルコンテンツを投入しました。まずは「TOMBOW DIARY」というブログを公開しました。「TOMBOWの目線でレポートする“プチ”インフォメーション」というキャッチにあるように、トンボ鉛筆のスタッフが新商品やキャンペーンなどに関して直接メッセージを発信するというものです。パーソンtoパーソンでユーザーとのコミュニケーションを図りたいと考えています。
WS 商品に絡んだコンテンツもありますね。
和多氏 はい。同年に「Play Color with Impression」と「IROJITEN」というスペシャルサイトをオープンしました。「Play Color」は1981年発売のカラーマーキングペンで、女子高校生などを中心としたロングセラー商品です。言葉や気持ちを色で表現するというコンセプトで、スペシャルコンテンツも色を付けたメッセージでエモーショナルなコミュニケーションを図れるユーザー参加型コンテンツです。「IROJITEN」は日本の伝統色等をベースに、さまざまな色の名前をつけた色鉛筆で、1980年代から1992年にかけて全90色をラインアップした商品です。2006年当時、「大人のぬり絵」が流行し、再び脚光を浴びたことを受けてスペシャルコンテンツを制作しました。ほかにも、お子様向けに鉛筆やお箸の正しい持ち方が学べる商品「KODOMONO」シリーズの販売促進を図って、持ち方などを解説する「KODOMONO」スペシャルコンテンツも立ち上げています。
■学習支援も行う子ども向けスペシャルサイト
工場見学や文具の歴史など学習教材的なコンテンツを掲載する「発見!文具パーク」や鉛筆やお箸の正しい持ち方など、子どもの成長を支援する商品「KODOMONO」シリーズと連動したサイトもある
WS 次第に消費者とのコミュニケーションを深めるコンテンツが増えていく中、今年、リニューアルを迎えたわけですが、今回はどのような狙いがあったのでしょうか。
薗部氏 先ほども述べましたが、サイトを運営していく中で、メディアとしてのWebで企業情報を発信するだけでなく、ブランディングツールとしての機能性も大きくなってきたんです。また、2013年の創業100周年を迎えるにあたって会社内部でもブランディングの重要性が議論されるようになり、2006年には「トンボブランディングプロジェクト」を発足させ、ブランド再構築を目指した活動を開始したんです。Webサイトもその活動の一翼を担うものとしてリニューアルを検討しました。
■トンボのこころを伝えるスペシャルサイト
2006年に発足した「トンボブランディングプロジェクト」を受けて、本年のサイトリニューアルに合わせて公開された「トンボのこころ」。媒体広告とともにトンボ鉛筆の企業メッセージを発信する重要なスペシャルサイト
WS 具体的にはどういったリニューアル施策だったのでしょう。
薗部氏 まずトップページでは企業広告と連動したイメージをプレゼンテーションエリアで展開することで、ブランドイメージの統一を図りました。また、トンボ鉛筆の企業理念を言葉として表したコーポレートメッセージ「トンボのこころ」も、リニューアル時にはスペシャルコンテンツとして公開しました。実際のところ、当社のWebサイトは商品を売るといった具体的なビジネスを展開するわけではないんです。むしろ当社ですべてをコントロールすることができるメディアとして、媒体を通じた広告で伝えるメッセージをさらに深めたコンテンツとして発信。誠実にメッセージを伝え続けることで、企業としての信頼性と期待感につなげるという役目が非常に大きいと考えています。
※役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。
本記事は『Web STRATEGY』2008年7-8 vol.16からの転載です