リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第10回 日産自動車 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第10回 日産自動車

2024.4.27 SAT

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第10回 日産自動車


日産自動車株式会社
マーケティング本部 マーケティングダイレクターオフィス
マーケティングマネージャー
星 正人 氏 (左)

同 マーケティング本部 販売促進部
主担(インターネットチーム)
工藤 然 氏 (右)



ユーザーとのタッチポイントとして
つねに先進の技術・コンテンツを展開する


業績において急速なV字回復を見せた日産自動車。21世紀を目前にして開始された日産リバイバルプランは、大胆なコスト削減と同時に、新たなブランドイメージの確立を目指し、先進的なプロダクトデザインと積極的なPR戦略などの施策を次々と実行。特にWebにおいては、日産自動車の取り組みの歴史は長く、つねにユーザーの目を引くコンテンツ展開を行っている。また、対ユーザーだけでなく、B2B的な活用も含めて、黎明期よりインターネットを利用したビジネスモデルを模索し、さまざまなトライを行ってきたという。

今回は、日産自動車のマーケティング本部マーケティングダイレクターオフィス・マーケティングマネージャーである星正人氏、そして同社マーケティング本部販売促進部 主担(インターネットチーム)である工藤然氏に、日産自動車のWebサイトへの取り組みに関してお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 パイロットチームによる
初期日産自動車Webサイト


Web STRATEGY(以下、WS) 日産自動車では、かなり早い時点でWebサイトを公開していたと思います。まずは、インターネットへの取り組みの歴史からお聞かせください。

工藤氏 1994年12月にコンパクトRV「ラシーン」の販売を開始したのですが、同時期に車名の語源ともなった「羅針盤」という名称のWebサイトを公開しました。これが当社初のWebサイトでした。当初はSPツールのひとつというとらえ方で、ラシーンに限らず、その後GT-Rのオフィシャルコンテンツなども展開していきました。ユーザーとのコミュニケーションを踏まえた情報提供を行い、プロモーション的な活用をしたということでは、94年当時の状況において自動車メーカーとしては初の試みだったといってよいのではないでしょうか。

WS 当初はどういった部門でWebサイトの運用を行われていたのでしょうか?

工藤氏 94年から99年にかけては、研究所を主体としたパイロットチームによって運用を行っていました。インターネットというステージを研究対象として、“デジタル”と“コミュニケーション”というキーワードで新たなビジネスモデルへのトライアルを行っていたんです。新しいメディアとしてのプロモーション活用だけでなく、何らかの形で事業化ができないだろうかと模索していたといえます。

星氏 この次期、ある意味、日本初・世界初といったインターネット活用の試みに数多くトライしましたね。たとえば95年からル・マン24時間自動車レースのインターネットライブ中継実験を行いました。当時の回線状況に即して、映像ではなく静止画像による疑似的な映像中継でしたが、現地にSUNサーバを3台設置して分散処理するなど、先進的な試みだったと思います。ル・マンに関しては、98年には衛星中継を利用した映像コンテンツを配信しました。また、同年の東京モーターショーにあたっては、11日間連続でインターネット上で生中継を行うといったことにもチャレンジしています。

WS 90年代にライブ中継コンテンツを行うなど、かなり積極的なインターネット活用だと思いますが、ほかにはどのような展開をしていたのでしょう。

星氏 研究所を主体として運用を開始したWebサイトですが、95年の段階でデジタルコミュニケーション室という部署を立ち上げ、スタッフを社内公募し、研究部門、システム部門、プロダクト部門から幅広く人材を集結しました。先ほど工藤も申しましたが、当社では早くから“コミュニケーション”という点に着目していたことと、インターネットを単に情報提供ツールとしてだけでなく、インターネットを活用した事業展開、ビジネスモデルの構築を強く意識していたからです。したがって、このパイロットチームによる運用時代には、中古ディーラーとのB2B的な情報提供サービスや、車種名をメールアドレスとすることのできるプロバイダ事業なども展開しています。ある意味、パイロットチームだからこそ、さまざまなチャレンジができたともいえますね。

日産自動車トップページ (http://www.nissan.co.jp/)
■日産自動車トップページ (http://www.nissan.co.jp/
Flashによってプロモーション車種情報を展開する日産自動車オフィシャルサイトのトップページ。車種によって最新のTVCMコンテンツへのリンクが登場。キャンペーン情報を提供するWhat's Newはオンマウスで登場させるなど、コンパクトなレイアウトが特徴

日産自動車サイト構造
■日産自動車サイト構造
グローバルメニューは、まずはユーザーがもっとも気になる新車情報へのメニューを先頭に、全車オンラインカタログとしての「カーラインアップ」、購入検討サポートから販売店への誘導を図る「購入検討サポート」、メンテナンスやオプション情報を提供する「アフターサービス」、ユーザーとのコミュニケーションを醸成する「エンターテインメント」、そして「企業・IR情報」という構成


2 情報提供からコミュニケーションの時代へ

WS パイロットチームでの運用が本格的なオフィシャルサイトとしての運用にリニューアルされたのは、いつごろなのでしょうか?

工藤氏 オフィシャルサイトの運営母体が、デジタルコミュニケーション室からマーケティングへと変更されたのは99年から2000年にかけてのことです。基本的には新車情報コンテンツなどは販売促進を担当するマーケティング本部が管轄し、企業情報は広報部、そしてバックヤードとしてのインフラ整備などはシステム部門で管轄するといったように、会社内の仕組みとしてきちんと整理したということになります。ただし、弊社のWebサイトの場合、ある時点で大きくリニューアルしたというのはないんです。つねに新しいコンテンツにチャレンジしており、継続的に進化してきたといえます。

ユーザーボイス
■ユーザーボイス
ユーザーとのコミュニケーションを重視する日産自動車では、オフィシャルサイト内にユーザーの声を掲載するコンテンツ「ユーザーボイス」を展開。車種ごとに統計データや口コミ情報を掲載する

よりパーソナルな情報提供をする会員制コンテンツ「N-Link」
■よりパーソナルな情報提供をする会員制コンテンツ「N-Link」
所有する車種情報などを登録すれば、リコメンド情報も提供される


星氏 表面的に大きな変更があったわけではありませんが、2000年から2002年にかけて社内的な標準化に取り組みました。ブランディングも意識してのことですが、全社的なスタイルガイドを作成し、デザインとしても大枠のフレームを統一するようにしました。同時期にグローバルでのガイドライン作成も行ったのですが、ガイドラインのローカライズ作業などもあり、当時は毎週200ページほどの英文資料に目を通すという日々でしたね。

WS ディーラーも含めれば、国内だけでも膨大なページ数となりますが、全社的な管理はどのような仕組みで行っているのでしょう

工藤氏 ディーラーも含めたブランディング戦略を早い段階から意識していたこともあり、1998年ごろからオンラインショールームと称して、全国の販社用サイトをCMS的なツールで管理するようにしました。ディーラーごとに個別ドメインを割り当てるなどフレキシブルな対応もし、目立たないですがB2B的な活用事例としては重要な施策だったと思います。

星氏 Webサイト運用の効率化という意味では、適所にCMSを導入しています。まずは2002年にニュースリリースコンテンツをCMS化しました。また、2003年にはカタログ情報コンテンツを全面的にCMSに移行。ニュース、カタログ情報ともにリリース時期や情報の正確性などが重要となりますので、CMSによる運用が効率化も含めて最適だろうと考えています。また、運用を考慮してCMSには性能はもちろんのこと、安定性といった面も重視して製品をセレクトしています。

WS 標準化や運用効率化といった、言ってみればバックヤードとしての施策とは別に、インターネットのトレンドの取り込みも早い印象があります。特にビジネスブログの先駆けともなったTIIDA公式ブログはどのような経緯で企画化されていったのでしょう。

日産自動車のビジネスブログ
■日産自動車のビジネスブログ
車種としては過去から現在まで絶大な人気を誇るスカイライン、そしてカジュアルにカーライフを楽しめるCUBE。また幅広いカテゴリとしてのミニバンやドライブといったテーマのブログも展開

日産ミニバンBLOG
■日産ミニバンBLOG
TIIDAブログに始まる日産自動車のビジネスブログは、ほかの車種でも展開。また、車種限定ではなく、ミニバンをテーマにカーライフによった情報交換を目指したブログもある


星氏 まずブログというツールに関してですが、これはTIIDA発売の1年ほど前にすでに注目していたんです。ビジネス的に活用することができるのではないだろうかと。もちろん更新性といったブログの特性も注目していたひとつの理由ですが、より重視していたのはユーザーとのコミュニケーションという点でしたね。同時期に、全社的に新たなブランディング構築を目指したプロジェクトが発足し、TIIDAを含めて新たに6車種を投入することになり、話題性を集めるという意味でもプロモーションに何か変わった仕掛けを使いたいというのが販促の考えでもあったわけです。コンパクトカーとしてのTIIDAに対しては「思ったより室内が広い」とか「質感がいい」といったカタログ情報では伝えきれない強みがあり、それを担当者の視点を借りてユーザーに語りかけるコンテンツを提供しようということでTIIDAブログへとつながっていったんです。

工藤氏 ユーザーとのコミュニケーションは初期からの課題でもあり、さらに言えばよりパーソナルなサービス提供もインターネットでは必要と考えています。たとえば98年には中古車情報を提供する「Get-U」でパーソナルページを提供しました。当時はリアルタイムで中古車情報を提供するサービスはなかったと思いますが、「Get-U」ではリアルタイム更新を実現して、個人に対してより精度の高いサービスを提供しようという試みだったんです。

星氏 インターネットによって、ユーザーとのタッチポイントは飛躍的に広がったと考えています。Webサイトの運営を通じて、会員組織化も図りましたし、メルマガによる情報提供から、ブログなどのトレンドも積極的に取り込んでいます。タッチポイントはさまざまですが、適材適所として適正なツールやサービスがあるんです。携帯電話もタッチポイントのひとつですね。携帯コンテンツは2002年にはNTTドコモの公式サイトとして開始していますが、実際に携帯を使って当社製品である自動車を購入するといったことまでは期待していません。むしろ情報補完ツールとしてとらえており、その視点でのコンテンツ投入が重要だと考えています。

WS ネットトレンドの取り込みとしては、Windows Vistaで広く注目されるようになったガジェットもずいぶん早くから提供されてますね。

日産デスクトップツール
■日産デスクトップツール
Windows Vistaの登場以前から、すでに提供を始めていた日産デスクトップツール。PCのデスクトップもユーザーとのタッチポイントととらえたサービス展開


工藤氏 そうですね。日産デスクトップツールというものですが、これも早くから提供サービスを開始しました。RSSビューワやメモ、カレンダー、計算機、天気予報といった手軽かつ便利な機能を提供するアプリケーションですが、新しい試みとしてトライしたという意味もありますが、やはりPCのデスクトップをユーザーとのタッチポイントととらえたサービスだともいえます。

星氏 Webサイトで展開するコンテンツの大きな目的は、最終的にはディーラーまで導くというものです。基本的にはオンラインカタログがその役目を担い、適正な情報提供が行われればいいわけですが、ゴールであるディーラーでの購入という行為にはリアルなコミュニケーションが必要です。したがって、ユーザーとのコミュニケーションが円滑に行われるような土壌づくりがWebサイトの役目であるとも考えています。そのためのブログであり、デスクトップツールであると。また、たとえばミクシィなどの外部のコミュニティでの活動も大事だと考えています。

他メーカー比較
■他メーカー比較
他社製品との比較をオフィシャルコンテンツとして提供。ユーザー視点でのコンテンツであり、これも日産ならではのコミュニケーション手法といえる


3 マーケティングツールとして
数値化が可能なインターネット


WS 新たなことに積極的にチャレンジしてきたというのが日産Webサイトの歴史だとして、そのスタンスはいつごろからあったのでしょうか。

星氏 新しいことにチャレンジするという考え方は94年の段階からすでにあったことで、それは2000年に主管整理をした時点でも変わることはなかったですね。インターネットでは、技術・アイデアともに新しいことに取り組むことが重要であり、他社を凌駕するサービスを提供することで勝ち抜くことができるというのが基本的なスタンス。

WS ところで新たなことにチャレンジするにしても、予算もからむことであり、経営層の理解を得る必要もありますね。

工藤氏 94年当時は、やはりインターネットへの理解はまだ浅かったと思います。特にビジネス的な活用ができるかどうかは、模索状態でしたから。ただ、98年ごろにWebサイト上で商品カタログを提供すると同時に、ディーラーへとユーザーを誘導し、実質的にインターネット経由での購入者がいるということを数値として示したんです。数値化したデータというのは、非常に強い説得力をもちます。これによって経営層も、インターネットを活用した事業展開を具体的に理解していただいたと思います。単純にWebカタログを展開していただけではダメで、そこをタッチポイントとして最終的にはディーラーでの購入というリアルなコンバージョンまでのつながりを数値的に示したことが大きかった。

星氏 マーケティングは科学だと考えています。そういう意味では、インターネットは、さまざまなデータを数値化し、可視化することができる。インターネットをどのように利用するかといった企画・アイデアだけでなく、そのコンテンツによってどんな結果が得られたかといったアウトプットが重要。これを積み重ねることで、インターネットの利用価値を見いだしていく。つねに新たな試みに積極的に取り組んできたことで、その結果をデータ化し、現在では膨大なアウトプットを握っています。これが、次に新しい試みがあり、それが価値あるものとわかれば必ずやる、という判断基準ともなるわけです。


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2007年9-10 vol.11からの転載です
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