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リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第13回 ライオン

2024.4.25 THU

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第13回 ライオン






ライオン株式会社
広報部
ウェブ広報担当部長
新井竜次 氏




会社そのものを映し出す鏡として
Webのメディア的機能を追求するライオン


たとえば書籍やパソコン・ソフト、はたまた各種チケットなどネットとの親和性の高い商品を生産する企業であれば、Eコマースなどに積極的な展開を見せ、さらにモバイルなど他メディアを活用したプロモーション展開を図るなど、Webをフル活用したビジネスモデルも想定しやすい。しかし、日用品など一般消費者がネットではなくリアルショップで購買する率が高い商品を取り扱うメーカーは、Webに対してどういったスタンスをとっているのであろうか。

今回は、日用品としてのせっけんや洗剤、歯磨き粉などで著名なライオンを訪れ、広報部ウェブ広報担当部長である新井竜次氏に同社のWeb戦略についてお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 危機管理体制充実の中で立ち上がった
Web専門部隊


Web STRATEGY(以下、WS) 1891年の創業以来という長い歴史を持ち、われわれ日本人の日常生活と深く密着しているライオンですが、Webという新しいツールの登場において、まずはどのように取り組みを始めたのでしょうか。

新井氏 当社が最初のWebサイトを立ち上げたのは、1996年4月のことです。当時、ほかの多くの企業がそうであったように、当社もとりあえず企業としての公式サイトを公開しようという程度でした。

WS 当初はどういった部署が管轄していたのでしょうか。

新井氏 担当部署があったというわけではありません。広報とシステム部門の有志が集まって、特別なプロジェクトといった形で始めたと聞いています。当時はまだ社内でのWebへの関心度も低く、Webをどう活用していこうかといった議論も盛んに行われていたというわけではなかったんです。

WS Webへの関心度が高まり始めたのはいつごろなのでしょうか。

新井氏 やはり2000年ごろを境に、Webへの関心が高まり始めましたね。社内からというよりも、社会的にインターネットユーザーが急激に増加し、情報ツールとしての価値が認識され始めたことがきっかけだと思います。また、Webへの関心が高まったといって、それが仕事と直結して考えるという方向にはなかなか行かなかった。それは現在でもそうなのですが、Web担当者と社内の各部門担当者との温度差はかなり大きかったんです。リテラシーもそうですが、Webに対する感覚的な価値観というか、パッションというか。そういった部分は、予算をかければなんとかなるというものではなく、地道な啓蒙が必要なんですよね。ただ、Web担当者といっても正式な部署があったわけではなく、依然として主要業務を抱えた中でWebサイトもやるといった状況でしたので、啓蒙活動もなかなか進まなかったんです。

WS 社内的な体制が変わったのはいつごろのことなのでしょうか。

新井氏 最初にWebサイトを立ち上げてちょうど10年経過した2006年4月、ようやくWeb広報専門部門が広報部の中で正式に立ち上がったんです。それは企業経営において危機管理体制が非常に重要となってきたという経緯とも関連します。つまり、危機管理対策のひとつとしてオフィシャルサイトをしっかりと管理する必要性を経営陣が認識し始めたということですね。

WS 企業の危機管理体制にWebというメディアが必要であると?

新井氏 そうです。当社にとっては、まず第一にWebサイトはメディアだととらえています。それも企業自体ですべてをコントロールする自社メディアですね。一般消費者向けの日用品を製造・販売するメーカーとして、消費者との信頼関係を維持することが非常に重要であり、そのための情報公開ツールとしてWebにもしっかりと対応する必要性があると考えています。

ライオンのコーポレートトップページ
■ライオンのコーポレートトップページ
現在のトップページはグローバルメニューとして製品情報、生活情報という二大カテゴリのほか、企業情報関連メニューでシンプルに構成。また、ボディ部分にもトピックス、ブランドサイト一覧、キャンペーン情報を含めたサイドバーといった必要最低限の情報を整理して提供。実にわかりやすいトップページである


2 Webサイトリニューアルと
社内の意識改革


WS Web広報という専門部門の立ち上げと同時に、Webサイトのリニューアルに向かっていますね。

新井氏 ええ。それまでは正直言って、コーポレートサイトとしてはけっして整理されたものではなく、ユーザーにとっての使いやすさを意識したものではなかったんです。もちろん、それまでにつくり上げてきたコンテンツはかなり大量にあったんですが、各担当者ごとにバラバラにつくっていたという状況です。したがってデザイン的にもインターフェイスとしても統一されたものではなかったんです。実際、ユーザビリティなどの調査も行ったんですが、その結果はかなり厳しいものでしたね。

WS 既存サイトの分析のもとに、Webサイトのフルリニューアルに取りかかったのでしょうか。

新井氏 とにかくコンテンツ量が多かったこともあり、まずはユーザーにとってもっとも重要である製品情報から着手しました。それまで個別製品情報へのナビゲーションが非常に悪かったという調査結果もあり、リニューアルにあたっては「カテゴリ」「製品名」というシンプルにふたつの軸で検索できるようにサイト構造を再構成したんです。同時に、新しい情報を求めてくるユーザーにも対応し「新製品」という軸も設けました。これにより、ユーザビリティ、アクセシビリティともに大幅に改善され、従来に比べてPV数も大きく伸びるという結果につながりました。この結果が、ある意味、Webへの取り組みに対する社員への啓蒙にもつながったんです。

製品情報トップページ
■製品情報トップページ
製品情報コーナーのトップページもシンプルなナビゲーションデザインが特徴。ローカルメニューとして「カテゴリから選ぶ」「製品名から選ぶ」「新製品を見る」という3つの検索軸に絞り、リテラシーの低いユーザーでも簡単に操作できる


WS 製品情報を整理した次は、どのようなコンテンツの改修に取りかかったのでしょうか。

新井氏 次に取りかかったのが、製品に関連した周辺情報コンテンツの整理です。たとえば洗濯であるとか、掃除であるとか、またオーラルケアなど、初期サイト公開後にさまざまな情報コンテンツを公開していたんです。ただ、これらも言ってみれば、トータルな計画性のもとにオープンしたのではなく、オフィシャルコンテンツとしてのデザインやナビゲーションの統一性もあまりないものでした。そこで、リニューアルに際しては、「生活情報」というカテゴリを設け、その中に周辺情報コンテンツを収納していったんです。同時にデザイン・ナビゲーション的にもコーポレートサイトとしての統一化を図りました。現在でも、まだいくつかの外部コンテンツもありますが、今後も適宜取り込んでいこうと考えています。

生活情報トップページ
■生活情報トップページ
以前は乱立状態であったさまざまな情報コンテンツを整理した生活情報コーナー。ヘルスケア関連情報と日常生活情報に大きく分類し、それぞれにお役立ち情報への導線を用意。ここにもシンプルな操作性を意識したデザインワークを見てとれる


WS 現在では、今おっしゃられた製品情報、生活情報のほか、IR、CSRといった企業発信情報も整理完備され、基本的なコーポレートサイトとしての機能性は取りそろっていると思いますが、今後の課題についてはどうお考えでしょうか。

新井氏 リニューアルによってコーポレートサイトとしての改善は一定水準でできたと考えていますが、ではそれをビジネス的にどう活用するのかは、これからの課題だと考えています。具体的にはさまざまな課題が考えられますが、まずは社内的なWebサイトへの取り組みに関しての意識を変えていくということが必要だと考えています。実際のところ、当社の製品は日用品がメインで、Webサイトがビジネスに直結するというものではないんです。このことが社内でのWebの利用価値への関心が高まらなかった要因のひとつでもあるんですが、これを変えていく必要があると考えています。

WS 社内の意識改革が必要ということですね。

新井氏 そうですね。もちろん黎明期に比べれば、実際に業務ではインターネットを活用しているわけで、Webへの評価は高まっています。ただし、インナーブランディングという意味では自社サイトへの意識がまだ若干低いという現実があります。製品情報にしろ生活情報にしろ、コーポレートサイトのコンテンツとして掲載していればいいだろう、といった意識がないとはいえません。

しかし、リニューアルの際に意識したように、Webサイトにおいてはつねにユーザーを意識しなければいけません。情報を一方的に提供していればいいのではなく、ユーザーは何を求めてWebサイトに訪れてくるのだろうと考えることが重要だと思うんです。もちろん企業活動としての究極の目的は売り上げです。では、その売り上げに結びつけるためには、Webをどう利用するのか? どういうアプローチをとることで、ユーザーニーズに対応できるのか? そういったことを考えて、コンテンツを提供するという意識を持つことが重要だと考えています。そのためには社員に対してWebに関する教育なども行わなければいけないと思いますが、各部門の担当者は実際にはメイン業務が別にある。Webは片手間とは言いませんが、やはり主要な業務の合間にやるという状況ではあるんです。そういう意味では、社内における啓蒙活動はいまだにたいへんなことなんです。


3 地道にシンプルに続けることで
ライオンという企業を知ってもらう


WS 先ほどライオンではWebをメディアとしてとらえているというお話がありましたが、具体的にはどういったメディア機能を期待されているのでしょうか。

新井氏 そうですね。Webサイトをメディアとして機能させる場合、当社の商品特性を考える必要がありますね。先ほども言いましたが、日用品はリアルショップでの売り上げが70~80%であり、その意味では当社のビジネスはWeb、特にEコマースと直結するとは言い難いものです。だからといってWebの利用価値が低いというわけではないわけで、販売チャンネルとしての役割は低いけれども、メディアとしての役割はある。むしろ、その部分が非常に強いと考えています。ただ、店頭購入がほとんどという商品ですので、やはりTVCMのような既存メディアのほうが現状は訴求力があると考えています。Webサイトはどうしてもプル型となってしまいますから。既存メディアを使ったプロモーションでは、流通との連動も図りやすく、同時に50年以上の歴史もあり、それなりのノウハウもあるわけです。

WS 既存メディアであるTVなどのほうがまだまだ一般消費者には訴求力があるということですが、ではWebのメディアとしての役割は?

新井氏 TVCMなどの既存メディアによるプロモーションは、いわゆるプッシュ型のメディアとして商品名の刷り込みが大きな目的です。消費者の頭の片隅に商品名が残っていれば、店頭で手に取ってもらえる。売り上げに直接影響するプロモーション手段ということです。これに対して、Webサイトはユーザーが見に来るのを待つ。ただ、よくよく考えてみれば、TVにしろWebにしろ、いずれも対象は不特定多数であることには代わりないんです。もちろん、Webではターゲティング広告などもありますが、日用品メーカーとしてはどうなのか? むしろショップを支援するような従来の手法を地道に続けることが重要だったりするんです。したがって、Webサイトに関しては、一般消費者との信頼関係を築くためのメディアだと考えているわけです。

ライオンのWebサイト構成
■ライオンのWebサイト構成
ライオンのWebサイトは、主軸であるメインサイトのほか、ブランドサイトを含めた各種サテライトサイトで構成されている


WS リニューアルでも行われたように、消費者が求めている情報をシンプルに提供するということになるわけですね。

新井氏 そうですね。商品情報や生活情報、さらに企業活動など、ライオンという企業の良いところを訴求する自社メディアだと考えれば、まずは見てもらうことが重要です。Webサイトを訪れてきた人にいかにサイト内を巡回してもらうかが重要だと。ただ、日用品の情報って、そんなに求めらるものとは考えにくいじゃないですか。実際、私も以前は当社のWebサイトを見に来る人なんてそれほどいないだろうと考えていたんですよ。消費者の多くは日用品の仕様情報などよりも、価格情報のほうが需要で、ショップ情報や価格比較情報を掲載するWebサイトに行ってしまうだろうと、そう思っていたんです。じゃあ、実際のところはどうなんだろうと思って、昨年11月に主婦の方1,000名に対してアンケート調査を行ったんです。

ライオンが実施した主婦向けアンケート
■ライオンが実施した主婦向けアンケート
ライオンが2007年11月に実施した主婦層向けのアンケートでは、よく利用するサイトタイプとして「通販」「化粧品」「食品飲料」がトップ3という結果。ただし「日用品」に関しても17%と予想以上に関心があることがわかる。また、日用品メーカーのホームページでもっとも閲覧している情報は「消費者キャンペーン情報」(31%)がもっとも多く、次に「新商品情報」「健康や暮らしに関する一般情報」「既存製品情報」「製品使用方法」がベスト5という結果である


WS 消費者のWeb活用に関するアンケートですね。

新井氏 そうです。その結果なんですが、まずはもっとも利用しているサイトの種類は1位が通販サイト、2位が化粧品サイトとある程度想定できる結果でした。ただ、日用品メーカーのサイトはほとんどないだろうと考えていたところ、結果としては17%もあった。これは意外だったんですよ。確かに通販や化粧品などに比べればPV数は低いのですが、それでも当社でも年間に延べ1,000万人は訪れていただけるんです。つまり、見られる可能性はけっして低いわけではないと。また、ほかのアンケート項目として、日用品メーカーサイトに期待するコンテンツではキャンペーン情報に高いニーズがあることもわかりました。これも、ある程度想定した結果ではあるんですが。ただ、それがはっきりしたことで、それならばWebサイト上でサンプリング機能を充実させることで訪問のきっかけはつくれる。その後、訪問したユーザーにいかにWebサイト内に滞留させるかといった視点で、コンテンツの整備・拡張を行っていこうというのが、現在の方針のひとつとなったわけです。

当社のような企業にとっては、Webサイトはプロモーションで派手に展開するというよりも、むしろ商品情報や生活・お役立ち情報などをしっかりと掲載し、見やすく提供していくということが何よりも重要ですね。繰り返しになりますが、地道にシンプルに続けていくことが大切であり、その結果、Webサイトを通じてライオンという企業の良いところを伝えていく。言ってみれば、Webサイトは会社を映し出すものなんです。


役職、部署名、取材内容等は取材当時のものです。


本記事は『Web STRATEGY』2008年5-6 vol.15からの転載です
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