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リーディングカンパニーのWeb戦略に迫る 第17回 東京メトロ

2024.4.20 SAT

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リーディングカンパニーのWEB戦略に迫る


第17回 東京メトロ






東京地下鉄株式会社
広報部宣伝課 課長
中野宏詩 氏(右)

広報部宣伝課
沼部裕子 氏(左)


企業イメージの訴求と利便性の提供
東京メトロのWeb戦略


1927年に浅草・上野間で開通されたことに始まる東京の地下鉄道事業。1941年には、帝都高速度交通営団、いわゆる「営団地下鉄」が設立され、その後長期にわたって特殊法人として事業が展開されてきたが、2004年に民営化し、東京地下鉄(株)、通称「東京メトロ」が誕生。民営化により、従来とは異なる広報・宣伝業務が開始され、同時にオフィシャルのWebサイトの役割も変化していったという。

今回は東京地下鉄(株)の広報部宣伝課でオフィシャルサイト運用を担当されている宣伝課長の中野宏詩さんと宣伝課でクリエイティブプランナーを務める沼部裕子さんにお話をうかがった。

文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬



1 ユーザーの利便性を考慮して、
早期からモバイルサイトにも対応

Web STRATEGY(以下、WS) まず最初に、御社がオフィシャルサイトという形でWebへの取り組みを開始したのはいつごろからだったのでしょうか。

中野氏 当社のオフィシャルサイトが公開されたのは1990年代半ばで、すでに多くの企業サイトが公開されている中、多少遅いスタートだったとは思います。また、公開当初はいわゆる会社案内としての基本情報を掲載するにとどまっていました。それまで印刷物として制作していた会社案内をWebに置き換えたような感じです。当時は、まだ現在のように民間企業ではなく、帝都高速度交通営団という特殊法人として事業を行っていたこともあり、社内に宣伝課がなかったんです。Webサイトの運用は広報部が担当していましたが、業務としての宣伝活動はあまり意識されていない時代だったんですね。その結果、基本的な情報だけを掲載するところからスタートしたわけです。

WS Webの積極的な活用は民営化されるまで、あまり行われなかったということでしょうか。

中野氏 いいえ。当時、すでにインターネット自体は一般ユーザーの方にも広く浸透し始めていましたし、情報を提供する企業サイト側もさまざまな機能性をWebに搭載するなど、Webを情報ツールとして活用するということは認識していました。したがって、当社としても営団地下鉄をご利用になるお客さまに対して広く情報提供するためにも、オフィシャルサイトの情報強化はすぐに取り組み始めています。

WS まずはどういった情報を提供していったのでしょうか。

中野氏 最初は、やはり路線図や運行情報からですね。当社の事業において、お客さまがまず必要とされる情報は地下鉄の運行情報ですから、まずはお客さまに利便性をご提供するという意味でも、そういった情報から提供を開始しました。さらに、情報提供ツールとしてのWebの活用として、携帯電話向けのサービスにも着手しました。すでにインターネットはパソコンだけでなく、携帯電話でも利用するユーザーも増えてきている状況にあり、パソコンユーザーとはまた異なり、よりリアルタイムに情報を求めているユーザー層が想定されました。したがって、運行情報などはパソコンよりもむしろモバイルユーザーに最適な情報発信だろうということで、オフィシャルサイトの情報強化を検討し始めた段階で、すでにモバイルサイトも重要なターゲットとしてプランニングを行っていったんです。

WS モバイルサイトを公開したのはいつごろでしょうか。

沼部氏 1997年にオフィシャルサイトの情報を更新すると同時に、モバイルサイトもオープンしています。公開当時は、利便性のある情報としては運行情報の配信がメインでした。そのほかは、当時のモバイルサイトによくあったように待ち受け画面用の画像を掲載するなどエンターテインメント系コンテンツが多少あったという程度でしたが、オフィシャルサイトと同様にモバイルサイトも重視していたことは確かで、その後もコンテンツはどんどん拡張していきました。

中野氏 オフィシャルサイトもモバイルサイトも、まずは地下鉄をご利用いただくお客さまの利便性を考慮した情報を提供するというコンテンツから拡張していったわけで、企業メディアとして積極的に活用するところまでは、まだ至っていなかった。そういった展開になるのは、やはり民営化以降ということになると思います。

東京メトロのオフィシャルサイト構成
■東京メトロのオフィシャルサイト構成
東京メトロのオフィシャルサイトは、地下鉄などの東京メトロが提供するサービス利用者に向けた情報をベースとして構成。利便性の高い情報提供を行うと同時に、キャンペーン連動なども含めて、東京メトロのブランディングを行うためのメディア機能も果たす


2 民営化後は自社プロモーションメディア
としてWebを活用

WS 2004年に「営団地下鉄」から「東京メトロ」に変わりました。つまり民営化されたわけですが、それによってWebサイトの役割も大きく変わってきたということでしょうか。

中野氏 そうですね。先ほども言いましたが、営団時代は特殊法人として、自企業の宣伝業務は重視していなかったんです。自社の広告予算はほとんどなかったといっていいと思います。ところが民営化によって民間企業と同列になったことで、広報だけでなく自社の宣伝業務も必要となり、広報部に宣伝課が立ち上がったわけです。そして、オフィシャルサイトの運用も自社メディアとしての活用を考慮して宣伝課で担当することになりました。

WS 自社の宣伝に関してはどういった施策が必要だったのでしょう。

中野氏 まずは民営化に伴って変更された社名および愛称である「東京メトロ」を一般に広める必要がありました。そもそも営団地下鉄で親しまれていたわけですが、企業自体ではなく地下鉄が認知されているという状況だったと思います。ところが実際には、当社は鉄道事業だけを行っているわけではなく、商業施設開発や不動産、その他各種サービス提供などさまざまな事業を展開しているので、当社としてはそういった企業活動全般を認知していただくにあたって、まずは社名の認知を広めるところから始めなければならなかったのです。

WS 自社プロモーションということであれば、既存マスメディアでの展開がまずは考えられますが、Webサイトもプロモーションメディアとして位置づけているということでしょうか。

沼部氏 もちろんマスメディアによるプロモーションも展開してきました。現在でも毎回テーマを決めて、年に数回、TVCMでキャンペーン展開を行っています。ただ、どちらかというと情報を一方通行に発信するだけのTVCMによるプロモーションは広くキャンペーンを認知していただくというのが目的でありますが、それに対してWebサイトは、より奥深い情報をユーザーに提供するものであると同時に、双方向でコミュニケーションを図れるメディアであると考えています。TVCMによって広く気づきを与えたのちは、Webサイトがその受皿にならなければいけないわけです。そのためには、Webサイト上ではお客さまのニーズに合った情報をわかりやすい形で提供していく必要があると考えています。

WS 新たに生まれ変わった企業を認知させるという目的はどういったスケジュールで展開されたのでしょう。

沼部氏 まずは社名を認知していただくということに関しては、愛称である「東京メトロ」の訴求に注力してまいりましたが、およそ1年をかけてほぼ定着したという感触を得ましたので、その後は当社の事業全般を認知していただくということを3カ年計画で取り組んできました。というのも、東京メトロという名前はわかったけれど、やはりその事業内容への認知としては「地下鉄」という域を出ていない。駅構内での商業施設開発や駅ビル事業、不動産事業などを含めたさまざまな企業活動をしっかりと伝えていくには、マス広告だけでは十分に認知していただくことは難しいため、Webサイト上でより深い情報を提供していくことはとても重要です。

中野氏 今後は、事業内容を適正に伝えるだけでなく、財務状況などのIR情報はもちろん、社会貢献活動などについても広く伝えていく必要があるわけです。また、民間企業といえど、鉄道事業に関しては非常に公共性の高いサービスであり、安全性や防災といったことに対しても第一優先課題として取り組んでいかなければなりません。その意味では、運行情報などをはじめとした情報を配信するのは義務だと考えているわけです。

東京メトロの企業情報サイト構成
■東京メトロの企業情報サイト構成
企業情報サイトは、会社情報やリクルート情報のほか、株式公開に向けた財務情報やCSR的な社会環境への取り組み情報などで構成


3 公共性の高い事業を展開する企業として、
CSRにもWebを活用していく

WS 現在のオフィシャルサイトには、膨大な情報量が掲載されていますが、その内容としては幅広いターゲット層が想定されていると感じます。

中野氏 地下鉄をご利用になるのは、子どもからお年寄りまですべてがお客さまです。その意味でステークホルダーは非常に幅広い。同時に、株式公開を控えている企業としては、今後投資家の方々という新たなセグメント層にまで広がっていくわけです。したがって、各セグメントに対して、適正な形で情報を提供していくことが重要だととらえています。

沼部氏 すでにそれを考慮して、現在のWebサイトも構成しています。オフィシャルサイトは、広く一般に地下鉄をご利用いただくユーザーのためのサービス情報を中心としたものですが、会社情報、財務情報、社会環境活動などは企業情報サイトに集約して別サイトとして運用しています。そのほか、キャンペーン関連のコンテンツや、その他さまざまなセグメントに対して独自に提供する情報はスペシャルサイトとして公開しています。

東京メトロのスペシャルサイト
■東京メトロのスペシャルサイト
東京メトロでは、スペシャルサイトとして、キャンペーンに連動したコンテンツや「東京メトロこども大学」などのキッズサイトなども展開


WS オフィシャルサイトとモバイルサイトでは同じ情報を提供しているのでしょうか。

沼部氏 オフィシャルサイトでもモバイルサイトでも、運行情報、時刻表や路線図、駅構内や駅周辺の案内図、のりかえ案内、バリアフリー情報など、東京メトロを安心・安全・快適にご利用いただくための公共性・利便性の高い情報、これがコアとなっています。その他、お得な乗車券、イベント情報等のなどの旅客誘致を図る情報、そして、関連事業(カード、商業展開など)のPR、車内のマナー注意喚起といったお客さまに知っていただきたい情報で構成されています。こういったさまざまな情報に対して、PCとモバイルでは利用されるシーンが異なってきます。PCでアクセスするユーザーは、情報の事前確認といった目的で利用されている方が多いと考えています。これに対して、モバイルサイトでは、PCサイトを利用しないユーザーを獲得するための情報や、外出先から簡単に求められる情報を中心にリアルタイムにプロモーションをしています。したがってモバイルサイトのメニューは、速報性の高い運行情報を最上位として、Flashで見る路線図やイベント開催情報などニーズの高いものから並べるようにしています。

東京メトロのモバイルオフィシャルサイト
■東京メトロのモバイルオフィシャルサイト
オフィシャルサイトと同様に利便性の高い情報提供を行うモバイルサイト。ただし、よりリアルタイム性の高い情報メニューを優先的に表示するようなモバイルならではの対応を行っている


中野氏 オフィシャルサイトやモバイルサイトでの情報提供を充実させることは、同時に実際の駅でのサービス向上にもつながっているんです。Webによってお客さまの情報に対する期待水準が上がっているため、リアルでのサービス向上も当然行わなければならない。実際、駅での大型ディスプレイを使った文字情報などは以前と比べてかなり充実してきていると思います。

WS スペシャルサイトとしてはキャンペーンサイトのほかに、「東京メトロこども大学」といった独自コンテンツも展開されていますね。

沼部氏 このキッズサイトもブランディングの一環でオープンしたものです。キッズサイトといっても自分でパソコンを扱える小学校高学年をターゲットとしているので幼稚な世界にならないようにデザインを配慮。ちょっぴり背伸びした大人の世界観を表現し、東京メトロを舞台に地球温暖化、省資源・省エネルギー問題をWebならではの楽しいインタラクティブ体験を通じて子どもたちにお届けしています。新たに英語を学べるコンテンツも公開しました。

中野氏 公共性の高い事業を行っている当社としては、CSRへの取り組みも重要だと考えています。また、当社のグループ理念にも“東京に集う人々の活き活きとした毎日に貢献します”とあるように、地域・社会貢献にもしっかりと取り組みたいと考えており、そのためにもこのようにさまざまな切り口でのコンテンツ提供はこれからも行っていきたいと思いますね。もちろん、より利便性の高い情報提供にも力を入れていくつもりです。


本記事は『Web STRATEGY』2009年1-2 vol.19からの転載です
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