第16回 三井住友銀行
株式会社三井住友銀行
マスリテール事業部
ネットマーケティンググループ
増子雄一 氏
メディアおよびチャネルという
インターネットの特性を活用する三井住友銀行
日本三大メガバンクのひとつである三井住友フィナンシャルグループの三井住友銀行。金融業界再編により合併が続いた金融業界だが、その間にも着実にオンラインサービスの充実化を図り、各行がさまざまな商品展開を行っている。もともとネットとの親和性が高いといわれる金融市場。潜在的なユーザーニーズも高いため、ネットのセキュリティ・信頼性の向上とともにオンラインサービスの拡張が企業戦略の重要なファクターとなっているはずだ。
今回は三井住友銀行で、ネットマーケティング戦略の構築に携わっているマスリテール事業部ネットマーケティンググループ長の増子雄一さんにお話をうかがった。
文=仲町六朗 撮影=橘田龍馬
1 現金取り扱い以外のサービスやプロモーションは、
すべてインターネット化していける
Web STRATEGY(以下、WS) いわゆる銀行の窓口業務のインターネット化が始まったのはいつごろからだったのでしょうか。
増子氏 ここ数年の金融業界の再編が当行のインターネット化の歴史ということではありませんが、インターネットサービスを開始したのは10年ほど前になりますね。それ以前のオンラインサービスは、いわゆるATMによるサービスのレベルアップというのが主流でした。当行では、インターネット以前にも、リモートへのニーズに対応するために電話を使った「テレホンバンキング」も開始していますが、窓口やATMなどに足を運ぶことなく、自宅や会社などにいながらにして銀行のサービスを利用したいという、リモートへのお客さまのニーズはずいぶん前からあるんですね。テレホンバンキングはそういったニーズへお応えするもののひとつであったわけですが、インターネットはより充実したサービスを提供できる環境だと認識しています。
WS 早期のインターネットでは、セキュリティや信頼性といった面で不安を感じるユーザーも多かったと思いますが、サービスとしては限られたユーザーではなく、より受け口を広くしなければならない。そういう意味では、インターネット化というのは難問だったのではないでしょうか。
増子氏 そうですね。確かにインターネットのセキュリティ・信頼性には、不安を感じるお客さまもおられると思いますので、われわれも日々セキュリティの向上に努めてきています。一方でセキュリティ以外の面においても、金融サービスに関しては法規制面などからも慎重な検討が必要な課題も多く、インターネットという環境ができたから、すぐにインターネット上でサービスを展開できるということにはならない部分もあるわけです。ただ、もともと金融サービスというのはインターネットとの親和性は高いと認識していますので、今後もますますインターネットでのサービスやマーケティングを拡充していく予定です。
■三井住友銀行TOPページ
三井住友銀行のトップページ。一般の個人向けサイトをトップページとして、法人サイトとは明確に区分けしている。画面上部にインターネットバンキング SMBCダイレクトのログインボタンを大きく掲載。また、IR、採用情報、企業情報なども用意し、コーポレートサイトとして一般に認知されやすいグローバルナビゲーション構成としている
WS 親和性が高いサービスというと、具体的にはどういったものなのでしょう。
増子氏 基本的には、窓口やATMでご利用いただいているような預金口座へのお預け入れやお引き出しといったサービス以外は、すべてインターネットとの親和性が高いと考えています。実際、口座の残高照会やお振り込みといったサービスはインターネットで簡単にご利用可能です。また、カードローンなどのお申し込みも親和性が高いですね。こういったサービスは、現在では窓口やATMよりもインターネットのほうが利便性が高いというご認識をお客さまもお持ちです。これはリモートという利便性が、お客さまのニーズに合致している一例でしょう。
WS カードローンに関しては、メガバンクとしてはいち早く取り組まれた商品ですね。
増子 ええ。マスメディアを活用して大々的なプロモーションを開始したのは、メガバンクでは当行が最初でしたね。また、従来銀行がご提供するサービスは、お客さまの口座をベースとしたものだけでした。つまり、お客さまに当行のサービスをご利用いただく際は、まずはお口座を開設していただくことから始まるわけです。ところが、カードローンに関しては当行にお口座をお持ちでなくてもお申し込みいただけるようにした点が従来の商品と大きく異なります。同時に、先ほど述べたようにカードローンのような商品は、お申し込みに関しては、インターネットが非常に適している。実際、カードローンはインターネットからも多くのお申し込みをいただいています。
■カードローン
三井住友銀行カードローンのインデックスページ。情報提供から申し込みまでを網羅し、わかりやすいナビゲーションでネットの利便性をフル活用。申し込みに関しての自動契約機や電話への誘導もわかりやすい場所で告知している
2 プロモーションメディア、
そして販売チャネルとしてのWebの活用
WS インターネットのコンシューマー向けの活用として、いわゆる窓口業務のインターネット化による利便性の向上があり、それはツールの提供ということになると思いますが、そのほかのeコマース的な活用についてはいかがでしょうか。
増子氏 インターネットの活用方法としては、商品・サービスの販売チャネルとしての活用方法とメディアとしての活用方法といったふたつの側面があると思いますね。先ほどお話ししたカードローンなどに関しては、その両方で親和性が高いものだと考えています。
WS 販売チャネルとしても、プロモーションメディアとしても親和性が高いと?
増子氏 そうですね。個々の商品の特性や、それに対するお客さまのニーズ、ご利用のプロセスやタイミングによって異なると思うのですが、カードローンのような商品はそういった特性を持っていると思います。実際のプロモーションにはTVCMなどのほかのマス媒体も活用していますが、インターネットは、販売チャネル、プロモーションメディアの両面から、親和性は高い。
WS 商品特性に応じて、プロモーション戦略をシフトしているということですか。
増子氏 ええ。カードローンという商品は、マスメディアによるプロモーションが特に効果的ですし、必要なメディア戦略です。銀行が初めて乗り出したカードローンという商品のブランディングの垂直立ち上げを狙って、TVCMや新聞広告を主体にドーンとキャンペーンを開始したんですね。今でもTVCMなどのマスプロモーションは適時行っていますが、たとえばTVCMなどは、認知メディアとしては強力な位置を占めてはいるものの、まだ今の段階では販売チャネルにはならないんですね。カードローンのおもな販売チャネルとしては、電話、自動(無人)契約機、インターネットという3つがあるのですが、マスメディアでのマーケティングは、結果的にはこれらのチャネルに誘導するためのプロモーションということになる。これに対して、インターネットはプロモーションから直接チャネルへと誘導することが可能です。同時にカードローンという商品特性から、お客さまは自動契約機やインターネットといった、いわゆる“非対面”でご利用される傾向が強い。こういった特性およびお客さまのニーズを同時に実現するのはインターネットがまさに適しているんです。ほかにも外貨関連などの商品もインターネットに適した商品といえますね。「外貨宅配」というサービスも、インターネットでお申し込みいただけるサービスを提供しています。この商品は海外旅行などに行かれる方が事前に外貨に両替しておきたいというニーズにお応えするもので、従来であれば窓口や専門の両替コーナーまで出向いていただき、外貨やトラベラーズチェックに両替していただいていたのですが、この「外貨宅配」というサービスをご利用いただければ、Webサイトでお申し込みいただき、最短でお申し込み日の翌日午後には宅配便で外貨をお届けするというものです。これもインターネット時代に適したサービスといえるのではないでしょうか。
■インターネットバンキングSMBCダイレクト
■外国紙幣や旅行小切手を自宅に届けてくれる外貨宅配サービス
WS 特性によってはインターネットに適さないものもあるということでしょうか。
増子氏 適さないというよりも、アプローチが異なる商品も当然あります。たとえば、住宅ローンなどは、返済額のシミュレーションといった機能については、インターネットは非常に便利ですが、最終的な販売チャネルまでをすべてインターネットで、というのは、お客さまのニーズには合っていない面もあるわけです。カードローンという商品は、金利や返済額といった商品そのもののスペックと同時に、いかに申し込みの手続きが簡単にすませられるかといった販売面のマーケティングが重要。これに対して、住宅ローンは金利も含めたさまざまな条件がお客さまにも気になるところでもあり、また同じローンでもカードローンとはまったく違い、大きな金額になりますから、商品自体に対するニーズが大きいのではないでしょうか。任意のWebサイトで情報を見てすぐに決めるというよりも、インターネットでは各社の商品を比較検討できるような情報を収集し、最終的には窓口などに実際に問い合わせや相談をして、話を聞いて納得したうえで決められるケースが多いと思います。
WS なるほど。人生において、住宅は非常に高価な買い物ですから、慎重に慎重を重ねるものですね。Webサイトで気軽に申し込むというふうにはならない。
増子氏 住宅ローンはお借り入れ金額が比較的大きいことに加えて、ご契約内容に関してもよりシビアに検討されるケースが一般的ですから、手軽さや効率的といったインターネットの良さは、住宅ローンのお申し込みという意思決定プロセス上では最大のメリットとはなりにくいのではないでしょうか。やはりお客さまが最終決定される際には、どうしても営業店の窓口において人によるコミュニケーションが必要だと思います。ただ、先ほども述べたように情報収集ツールとしてのインターネットのメリットは大きい。ですからシミュレーションツールなどをWebサイト上で提供することで、手軽さや効率性といったインターネットの良さを活用しながら、より多くの情報をお客さまにご入手いただけるようなサービスを展開する必要があるわけです。
3 ユーザーの利用シーンに合わせた
情報提供の仕掛け
WS 住宅ローン・シミュレーションなどの情報提供ツールとは別に、プロモーションを目的としたWebサイトのメディア的活用に関して、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
増子氏 プロモーションを目的にメディアを活用しようと考えた場合、もちろんインターネットだけでなく、既存のマスメディアも含めたクロスメディアで展開するというのが現状だと思いますが、肝心なのはそれぞれに特性が異なるということです。まずTVなどのいわゆる4マスを使ったプロモーションは、インパクトやリーチが非常に大きいのが特徴です。その点はインターネットと比較しても、まだまだ格段の差があると思っています。したがってキャンペーンの立ち上げ時にはマスメディアを主軸を置きつつ、インターネットでも同時にプロモーションを展開します。その後、ある程度の期間、両者のバランスを検証しながら、インターネットとの親和性が高い部分については、次第にインターネットへとシフトしていくというのが基本的なアプローチだと考えています。
WS インターネットを使ったプロモーションでは、やはりバナー広告などが主流となるのでしょうか。
増子氏 もちろんバナー広告もありますが、ほかにもタイアップやリスティング広告などさまざまです。組み合わせ方などを考えれば、インターネット上で展開するプロモーション手法はそれこそごまんとあるのではないでしょうか。したがってインターネット上でのプロモーションでは、いかに最適化を施すか、ということが重要になってくると思います。われわれもどのタイミングでどういったプロモーションを行うかについては、インターネット上のユーザー動向なども含めてつねに検証して、チューニングを施しています。ただ、インターネットはチャネルとしても機能する、いわゆるレスポンス型メディアとしての活用も考慮しなければならないわけで、そういう意味ではチューニング作業というのはかなりシビアですね。パイが大きい分、ちょっとしたチューニングのズレがレスポンスに大きく影響して、予想外に大きくぶれることもありますから。そのあたりは、つねに検証して経験値を積んでいく必要があるでしょうね。
WS では、プロモーションのターゲットとなるインターネットユーザーに関してはどのようにとらえているのでしょう。
増子氏 当行の商品やサービスをご利用いただくお客さまを想定した場合、インターネット上でさまざまな情報を収集しているケースと、いわゆる振り込みや残高照会といったバンキングサービスをご利用になるケースが多いのではないでしょうか。ただ、インターネットへのリテラシーも上がっている現状では、単なる商品情報ではなく、情報の取捨選択の際、他人の意見を参考にされるお客さまも多くいらっしゃると思いますし、コンサルティングやネット相談といったコミュニケーションを主軸として情報を取捨選択するといったお客さまもおられると思います。そういったお客さまに対して、われわれはどのようなアプローチができるのかを考えた場合、やはり重要なことはお客さまが求める情報をしっかりとご提供していくことに尽きるのではないでしょうか。先ほどの住宅ローンのシミュレーションサービスもその一環ですが、お客さまが商品をお選びになる際のご判断材料を、さまざまなシーンでご提供していくことが大切だと思います。また、プロモーションによって情報へスムーズに誘導していくことも重要です。ただし、その誘導が強制的と感じられるとお客さまは敬遠されますので、そのあたりのバランスには細心の注意を払わなければいけないと思っています。
WS モバイルなどユーザーのインターネットの利用シーンも変化していますね。
増子氏 ええ。お客さまのご利用シーンは重要なファクターだと考えています。実際、カードローン商品に関しては、モバイルからアクセスされるお客さまも増えています。ただ、モバイルだからどうというよりも、お客さまがどんなシーンで、どんな情報をお求めになっているのか、なぜパソコンではなくてモバイルを使うのか、ということを把握することがもっとも重要だと思います。
■モバイルサイトへの案内ページ
本記事は『Web STRATEGY』2008年11-12 vol.18からの転載です