CGMから考えるWeb制作とコミュニケーション
7 CGM等の最新動向と企業コミュニケーションの方向性
7.5 手段としてのSMO、目的としてのSMO
CGMやソーシャルメディアの隆盛は、業界によってはビジネスモデルの変革さえも求めるものになっています。また、ビジネスモデルの変革までは求められない業界にしても、単なる広告のメディア・ビークルの選択肢の広がりではなく、マーケティング・コミュニケーション戦略やコーポレート・コミュニケーション戦略の見直しの必要性を迫っているといえるのではないでしょうか。いままで本稿ではSMO(ソーシャルメディア最適化)については、サイトプロモーションの手段としてみてきたわけですが、施策や戦術論ではなく戦略論までを考えてみると、手段としてだけでなく企業活動の目的としても位置づけたほうがしっくりくるようです。
[プロフィール]かとう・ともあき● 株 式会社クリエイティブガレージ インタラクティブコミュニケーションプロデューサー兼株式会社グロース・パートナーズIRコミュニケーションコンサルタント。市場調査会社での R&D業務経験を活かし、1999年よりWebマーケティング、ネットビジネス支援、Eコマースコンサルティングに携わる。プライベートでは、 ペットのミニチュア ダックスフントを愛する「つくねパパ」としてblogging。 |
「CGM活用プロモーション」でリアル企業サイトができること
ひと口に「CGMマーケティング」といっても、それに関する著作やWeb上での議論をみると、さまざまな立脚点のものが見られます。
それがブランディングを目的とした論旨のものであっても、Webベースでのブランディングのものが多く、リアルビジネスや既存のリアルブランドにおけるブランディング手法、ましてやリアルのコーポレートブランドまでに言及したものは少ないのではないでしょうか。
また、それがリアルビジネスや既存のリアルブランドのマーケティング・コミュニケーションの論旨のものであったとしても、「CGMをプラットフォームにした広告」のことであったり、「CGMを活用した(クチコミ)プロモーション」のことであったり、また、リアル広告を前提としての話なのか否かがバラバラで混沌としており、なかなか戦略論にまでは至っていないものが多いように思えます。
上記の立脚点の違いから誤解が生じないように、本稿ではできるだけプロモーションという言葉で当てはまるものについては、マーケティングという言葉を使わずに書いてきましたが、今一度このあたりのことをおさらいしておきましょう。
既存マス広告の出稿をせずとも、ネット上のウィルス(バイラル)が感染していくかのごとくの伝播力のみを利用して、ブランディングまたはプロモーションを実現する手法としては従来から「バイラルマーケティング」がありました。後にメルマガ広告やバイラルCMポータルのような広告プラットフォームが登場する以前は、バイラルマーケティングは、面白い動画ファイルやコンテンツページURLの、主にユーザー間のメールでの伝達や相互リンクに頼っていたものであったことを記憶しています。
そこに、CGM・ソーシャルメディアの登場やアマゾンのアソシエイトのような施策の成功により、より効率のよいバイラルプロモーションの手法として、「WOM」とか「クチコミ(ネット上の口コミ)販促」の手法がいろいろと語られるようになりました。
また、それと並行するように、従来のリーチを中心とした指標ではない(ネット上)での話題性づくりを指標とした「バズマーケティング」というコミュニケーション管理手法が注目を集めるとともに、話題性・クチコミ発生やコンバージョン効率を重視する広告サービスとして「ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)」「検索連動型広告」「コンテンツ連動型広告」「ブログPR広告」「ブロガー掲載内容承認型広告」等が市場を拡大しています。
上記のような情勢を踏まえ、「リード/ライト」インターネット時代の、リアルブランド企業のWebサイトのあり方及びそのWeb担当者がすべきコミュニケーション管理の手法を考えてきたのが、本稿であった訳です。
既にマス広告への出稿実績もあるリアルブランド企業が、既存流通やマス広告をとりやめEコマース設定とクチコミ販促だけで、従来どおりの売上や利益を確保できるものではありません。そもそもリーチの広いブランディング広告なしでも「売れる」ようになるためには、その商品力が圧倒的な差別性をもっていてその商品力が話題になることが条件として必要なわけですが、たとえある程度の売上げがクチコミ販促のみで獲得できたとしても、マス広告をしていればもっと売れたのではないか?もっとROI(投資効果)があがったのではないか?といった疑問には答えられない訳です。
CGMによる商品評価の共有は、ある意味、ブランディング広告で着飾った商品力を丸裸にしてしまうものともいえるものです。
だからこそ、「リード/ライト」インターネット時代のマーケティング・コミュニケーションの最適化に向けては、広告という情報発信も含めたすべてのコミュニケーションを以下のような視点でWebサイトにて管理し、運用型のコミュニケーションを実践しつづけるトライ&エラーをしつづける必要があるということを、本稿では述べてきました。
AIDMA(アイドマ)からAISAS(アイサス)へといったように、消費者の購入意思決定プロセスにおいては「商品情報を検索」する行為「商品評価情報をシェア(共有)」する行為が今後もますます重要視されていくことでしょう。それゆえ、Webサイトとしては、検索エンジンへの最適化(SEO)や検索行動に対応した広告出稿(SEM)を運用型で管理することは最低限必要なことといえます。
そして、マーケティング・コミュニケーションの最適化にあたっては、マス広告も含めた広告出稿をWebでも管理する視点と、CGMやソーシャルメディアへの最適化(SMO)の視点が重要視され、売上げや実際に発生した評判・話題性への影響・相乗効果をはかりつづけていくことが必要ということなのです。
※AISASは電通の登録商標です。
SMOは、サイトプロモーションの範囲を越える
さて、今回は、クチコミプロモーションを例に、「リード/ライト」インターネット時代のWebサイト管理のあり方について述べてきました。
結局、プロモーションといったコミュニケーション領域においては、上記のようなコミュニケーションの一元管理のもと、SMO(ソーシャルメディア最適化)といった手法などで、サイトプロモーションをはかるとともに「売り」につながりやすい評判・商品評価情報を大量に発生させようということになろうかと思います。
確かに、リンクを促す仕組みづくりや、ブロガーに引用されやすい画像やブログパーツといった引用素材をWebサイト内に用意しすること、また、動画ファイルやPDFコンテンツなどをソーシャルメディアに積極的にあげてしまうといったことは、手法としてわかりやすいものといえます。
ただし、突き詰めて考えるとSMOとは、「お問合せ対応といった1対1のコミュニケーションを、いかに効率よくN対Nのコミュニケーションとして昇華できるか」とか、「ユーザーに強要せず かつ 買収なしに、いかに企業側の謙虚な姿勢を示していくか」といった、ソーシャルメディアに受け容れられるための販促姿勢にまで及ぶものとも考えられます。
ましてや、プロモーション以外のマーケティング・コミュニケーション、リクルーティングやIRも含めたPR領域までのことを考えると、このSMOは、サイトプロモーションの範疇を越えた、マーケティングの共有化(ソーシャル・マーケティング最適化)や企業のさまざまなステークホルダーとの関係性のあり方のための指標としても位置づけられるものといえるようです。